うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『おみおくりの作法(2015)』に関する記憶

そんな訳で今回は『おみおくりの作法』です。
実は、お盆の間に観てたやつです。
 

『おみおくりの作法』予告編
 
尚、この作品は以下のあなたにおすすめと考えられます。
①正直なところ、冠婚葬祭マナーってめんどくさいよね?と思っている→Yes
②今の仕事、まじめにやってるのにどうにも評価されなくて、つらい→Yes
③優しいのが観たい。優しくて穏やかなのがいい→Yes

 
その心は

あなたは、誰かが死にたての部屋で飯を食えるか


ごめん、わたしは無理です。
正直、気持ち悪いような、こわいような気がしてきちゃって。
とてもとても、食べた気にならない。

しかし主人公のジョン・メイには、できるんです。
故人の気持ちをなぞりたい!って一心で、できちゃうんです。
 
「お弔い」って、結局のところ「型」ではなくて。
「心」ではないですか。
「心」が入っていなければ、「型」がいかにうつくしくても空虚なだけだ。

故人だって、喜ぶもんか!

だってわたし、上に上がったときなんか。
自分のお葬式をガン見すると思うもの。


たぶん、わたしの友達なんか、ね。
お焼香の手順とか盛大に間違ったりすると思うんですけど。

そんなことはいいの。どうでも、いいの。
こまけぇことはいいの、いいの。

それよか、ね。
踊れや。歌えや。
うまい酒呑んで帰ってくれや。
わたしが叶えてほしい想いは、それだけです。

冠婚葬祭のマナーって、めっちゃ細かいじゃないですか。
イギリスのそれも、日本ほど細かいのか?と訊かれると。
そこはちょっと、わかんないですけど。

こういうのは、失礼。
こういうのは、縁起が悪い。とかそういうの。
多少なりとも、あると思うんです。イギリスにも

「型」が先行しちゃうから、めんどくさいんであって。
まずはじめに「心」があって。
心を大事にしよう表現しようと思って。
思い過ぎて思い余って、「型」が生まれた。
本来は、そのはずだよね。

だったらお弔いの作法は、故人の数だけ、あっていいよね。ね。

「誠実で丁寧」vs「要領が悪い」


主人公ジョン・メイの業務は、身寄りの無い故人の葬儀に関わること。
遺品から、彼らの人生がどんなものであったのかを想像して。
なるべく彼らが喜んでくれそうなお弔いをしようとする。
そして、ひとりぼっちで送られては淋しかろうと。
身寄りを探しては彼らの死を伝え、お葬式への参列を打診したりもします。*1

これ...

どこからがpersonal service!?

彼は、ね。仕事のできない人ではなさそうです。
不器用そうではあるけれど。
しかし、彼の仕事ぶりは、ものすごーく、時間がかかる。
なぜなら、ものすごーく、丁寧に調べるから。

たしかに、ゴールの設定がむずかしいお仕事だと思うんだけど。
「コスト」を重視する上司と「心」を大事にするジョンとの間では、
どこまでを業務とするか?に、だーいぶ開きがあるのね。

(上司)「葬儀は死者のものではない。弔う者がなければ不要だ。
    残された者にしても、葬儀や悲しみを知りたいとは限らない。
    どう思う?」
(ジョン・メイ)「そう考えたことは一度も」
(上司)「とにかく死者の想いなど存在しないんだ」


なもんで。
なかなか、評価されない。
なかなか、報われない。
彼のやりがいはどこに?って、こっちが心配になるぐらい。

わたしなんかもう、簡単に見返り求めちゃうもんなー。
がんばった分はちゃんと、評価されたいし。
隙あらば、がんばってない分まで褒めてほしい。
ちょっとのことでも、褒めてほしい。


でもそんな下衆いこと、ジョンは言わないのだ。

「本当にありがとう 心から感謝してるわ」
「いいんです。私はただ、仕事を」


出た!また出た、これだ!
統合幕僚長も言ってたやつだ!!!
ほんともう、この人種の清さときたらもう…*2

評価なんかされなくても、感謝なんかされなくても。
自分の仕事を、続けるの。
静かな情熱を以ってして。
粛々と、淡々と。

そんなにがんばっても...どうせ、報われないんでしょ?


でね...

みんな、「夢は、いつか叶う」とか言いたがるじゃないですか。
「努力はいつか、報われる」 とか言いたがるじゃないですか。

そんな訳あるか!
こちとらもっと理不尽で、納得がいかない想い、いっぱいいっぱいしたわ!!!

でもね。
これ観て、コロッと寝返ったね。

そういう意味なら、たぶん...
誰の夢も、叶います。
努力は必ず、報われます。

そんな、優しい優しいラストです。

ごめん。
もっとまじめに、ちゃんと生きるわ。ごめん

心のひだに入れてもらうには?

ラポール術について説く書籍だの、サイトだの。
今やもう、世の中には山ほどあるじゃないですか。
介護現場で、医療機関で、学校で。
はたまた、恋愛工学信者のみなさんの狩場で。
さまざまな需要があるもんね。

でもねえ、ジョンのラポールは質が違う。
小手先のテクとかじゃ、ない。

ああ。人間、相手の気持ちを最大限に尊重したら。
言動も、こうなるかもなあ。って
だけど、なかなかできることじゃないよなあ。って

亡くなった方のも、ご遺族のも。
どちらの事情も、尊重する。
丁寧に丁寧に、言葉を選んで。
ごり押ししないように、踏み込みすぎないように。
でも、寄り添うように。

丁寧に丁寧に、目を見ながら聴く。
そのときの、そして今の。
彼らの気持ちを想像しながら。

わかったつもりにならないように、説教にならないように。
丁寧に丁寧に、言葉を選ぶ。

こんな愛もあるのね。
なんて深くて、こまやかなんだ!
こんな愛もあるのね。

低彩度にも、惚れまして

全体的に、色温度が低めです。
青み側に振ってあって、彩度も低め。
でも、暗くはない。

芝生の青さが、とても映えて。
列車の赤いシートも、とてもきれい。

いいなあ...こういう画。こういうトーン。
ずーっと、見ていたい。

これがね。
扱っている題材にも、ジョンのキャラクターにも。
イギリスへのイメージ((霧や雨が多そう。お天気悪そう)にも。
しっくり、馴染んでいる感じなんです。

いいなあ、こういう画。こういう、トーン。
ずーっと、見ていたい。

*********

ジョン・メイ役のエディ・マーサンが、びっくりするほど巧い。
口開けて観ちゃった。
久々に、追いかけてみようかなあ?と、思うぐらいの役者でした。

毎年、お盆のたびに観返そうかなあ?これ。
観るたびにこちらの背筋を伸ばしてくれるような、素敵な作品です。ぜひぜひ

*1:参列も葬儀費用の負担も、義務はないらしい

*2:それに引き換え、わたしの下衆さといったらもう…