うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『この世界の片隅に(2016)』に関する記憶

そんな訳で今回は、『この世界の片隅に』です。

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映画『この世界の片隅に』予告編

尚、この作品は以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①戦争映画か...重いの苦手なんだよな...と思っている→Yes
②もれなく戦後は強くたくましくなる、朝ドラヒロインには食傷気味だ→Yes
③アニメに声当てる俳優・芸人にうんざり。ちゃんと声優使え!と思っている→Yes

その心は...


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実はわたし、戦争映画がけっこう苦手です。
特に、うちね。親が教員だったこともあって。
毎年、原爆の日終戦記念日がやって来ると必ず、
なんらかの戦争映画とかドキュメンタリーとか
見せたがる家だったのね。

平和教育、もちろん大切です。
でもね、うーん....始める時期の見極めも、同じぐらい大切かもね。
うちは小学校に上がるか上がらないか、って頃からそんな状態だったから。
子どもの頃は、夏休みも8月に入るとこわくてこわくてたまらなかった。

そんな感じでトラウマ期が長過ぎたので。
大人になってからは、戦争映画って数えるぐらいしか観てないかも。
火垂るの墓』ですら、エンディングまでちゃんと観れたことがない気がする。
あんだけばんばん○曜ロードショーでやってるのに。

当時本当にあった話、あるいはそれに近いことであったのは、わかってるんです。
日本人として知ることが大切なこと、知らなくちゃいけないことも、
全部全部、わかってるんです。でも

ごめんなさい。
ごめんなさい。
受け止めきれなくて、ごめんなさい。

そんな状態なので。
ごめんなさい。正直に告白すると。
これ観に行く前は少なからず、気が重かった。

また、こわいかな。やだな。
観終わった後、お腹どよーんとするかな。
やだな。やだな。こわいな。

正直に告白すると、そんなふうに構えてました。
ごめんなさい。
ごめんなさい。


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で、すずさんですよ。
断言します。

これ観たらもれなく全員、すずさんのこと好きになります。
もれなく、全員。
こんなん見せられたら、間違いなくやられてしまうよ。

わたしが観たときは、月曜日のわりと早めの時間だったんです。
立ち見はいなくって、でも、それでも。
8、9割方は埋まってたんじゃないのかなって思うんだけど。

「ありゃあ」
「弱ったねえ」
「バレとりましたか」

すずさんが>>_<<ってなるたび、
何度あたたかい笑いが起こったか、わからない。

家族から愛されて。
理解のある旦那様に子どもの頃から一方的に見初められて、結婚後も溺愛されて。
しかも戦争で亡くなるということもなくって。
お嫁で来た家でもご近所からも、ことごとく愛されて。
でも、幼馴染みとはうっすら想い合っていて。

普通に考えたら、ね。
いやいやいや...そんな奇跡ねーよ!
って思うよね。全然、現実的じゃない。

万が一見初められたとしても、あんな素敵な旦那様じゃないとか。
万が一素敵な旦那様であったとしても、結婚後は冷たくなるとか。
足の悪いお義母さんからは、こき使われて。
出戻りのお義姉さんからも、いびられて。
夫以外の男に懸想だと!?出ていけーーー!!!

これぐらいやって、ようやくリアル。

でもねえ...すずさんがこんなんだもんね...。
そうだよなあ、そうだよなあ。
こんなん見せられたら、誰もが間違いなく好きになってしまうよなあ。

としか、思えなくなる。
なんてーの?

可愛らしさに、説得力があるの。
「んなことあるかい!?」って意地悪なツッコミが頭をもたげてきたら。
首根っこ掴まえて黙らせるぐらいの、可愛らしさ。

しょうがない、しょうがない。
すずさんならば、しょうがない。


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戦争映画が苦手。ってさっき書いたけど。
戦時中の日常の話は、好きなんです。わたしも。
こんなもの食べてたんだよ。とか。
こんなふうに着てたんだよ。とか。
工夫して暮らそうとする人々の、小さな話は好きなんです。
その姿に驚きも感動も、する。

この作品は、小さな庶民のに日常図鑑的なところもあってね。
ごはん支度のシーンなんか、かなりへーえ!と思う。
ちょっと、食べてみたくもなる。

途中までは、質素ながらものどかな暮らしが描かれてるんです。
わりと、のんびりした空気感で。

このまま終わってほしいなあ。
そうだったらいいなあ。
そうであってほしいなあ。
と思ってもね...

昭和20年の広島ですよ。
もちろん、そんなことはないよね。

その頃にはもう、しっかり心を掴まれていて。
がっつり感情移入していたわたしです。
こんなに素敵なあたたかい"普通の"人たちが一人欠け、二人欠け...
どんどんいなくなるところなんて、見たくなかった。

じゃけえ、すずが普通で安心した
 
すずがここで家を守るんも わしが青葉で国を守るんも
同じだけ、当たり前の営みじゃ
 
そう思うてずうっと この世界で普通で...まともでおってくれ
 
わしが死んでも
一緒くたにして英霊にして 拝まんでくれ
笑うてわしを思い出してくれ

でも、そうはいかないんだろうな。って
この中から何人残るんだろうな。
この人かな?あの人かな?
あれ?今のはフラグかな?
心の準備をしなきゃね。

そう思いながらも途中からは、祈るような気持ちで観ていました。



結論から言うと。
この作品の中で、はっきりと死が描かれるのは一人だけでした。*1
昭和20年の広島ですよ?
これは随分、意外だった。

しかしね。
その一人ので喪失感の描写が、凄まじいの。

失くなるものが、まったく映らないんです。
ありがちな、逝く前の感動的な台詞とかも、ない。
急に、いなくなってしまうの。
そして、もう二度と会えないんだなってわかるの。

だからね。
わたしが覚悟していたような類いのこわさやおどろおどろしさは全然なくって。
なのに、苦しい。
息が、できない。

すずさんの中の、灰色でどろりしたものが、
同じ重さで、同じ濃度で。
しっかりこちらに転送されてくるんです。

凄かった。
アニメって、こんなことができるのか!?って


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そうそう。
それから、のん(a.k.a 能年玲奈)について。

すずさんの声は、完全に「のん」でした。
ただひたすら、「のん」がだだ漏れてた。
それは予告を観たときからすでに感じてはいたんだけども。
びっくりするぐらい、終始「のん」だった。

その辺りが、賛否両論みたいでね。
ずっとちらつく「のん」の顔が邪魔。集中できない!
っていうのも、うんうん、わかる。
わたしも、顔の見えるアテレコはちょっと...って思う派です。
話題作りお疲れさまでーす!って穿った見方、ついしちゃう。
普段ならばね。

ただのこの、すずさんというキャラクターがね...
のんに当て書きしたんじゃないの?ってぐらい、よく合ってるんです。*2
演者であるのんがすずさんに寄せていってる。というよりは
すずさんが漫画の中から飛び出してきてくれて、
のんに降りてきているような印象。

すずさんものんも、ぽわぽわした空気を纏った人種なので。
だからかなーどっちも天然っぽいもんなー
って思いながら、途中までは観てたんだけど。

玉音放送後の慟哭とか。
右手の回想のモノローグとか。
随分、むずかしいシーンも多かったと思うの。
特に、後半。

事務所問題がこじれて干されたと噂されたり、改名したり。
いろいろあったと思うのだけれども。

天野アキ以来の当たり役だと思います。
おかえり、のん。
*3


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たしかにこれ、戦争の悲惨さは伝わってくる作品なんだけど。
それ"だけ"ではない気がするんだ。

ねえ、リンさん
あのとき、わたしの居場所はどこだったろう
そうだ、反対側の塀、いくらか板が抜けとったはず
爆風に乗ってあそこに飛び込めば
あの向こう、あの向こうこそ

わたしの居場所だったんだろうか

この答えこそが、この作品のメインテーマなのでは
わたしにはそう、見えました。

深い深い喪失感や自責の念に苛まれて、
世界が自分が、歪んで見えたり。
自分の存在意義がぐらぐらしたり。
希死念慮に駆られたり。

わたしたちも知ってるよね、この感覚。
なにも、戦時下に限ったことじゃない。
これはそんな"普通の"人たちの再生の物語です。


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BGM全般も、すーごくよかった。
やわらかなコトリンゴの歌も素敵ですが、インストゥルメンタルも、優しくて。
制作費の一部をクラウドファウンディングで集めたのも、そう。
すずさんがいたこの世界観を再現できるように、
みんなで、大切に大切に作ったことがよく伝わる、宝物のような作品です。

わたしは観た回はね。
終演後、自然と拍手が起こりました。
観客も、宝物を大切に大切にに受け取ったのでしょう。

戦争映画が苦手な人も、重いのが苦手な人も。
ぜひ、すずさんに会いにきてください。
わたしはあと2回はに行くつもり。

ふわふわとしていながら、
辿り着いた先でしっかり根を張って。
華やかでなくても小さいながらも、みんなに愛される。

たんぽぽのようなすずさんに、どうぞどうぞ会いに来て。

「この世界の片隅に」 オリジナルサウンドトラック

「この世界の片隅に」 オリジナルサウンドトラック

*1:死が現実的でない、とか生死が定かではない、とか死んでいるけど知らない人。ていうのは他にもいくつか出てくるけれど。どれもぼんやり描いてある。おそらく、意図的に

*2:時系列を考えるともちろん、そんな訳はないんだけど

*3:北といい、西といい、彼女は本当に方言の役が多いなーって。キャスティングする人は彼女の中に何を見ているのか、すごく興味がある。