うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『はじまりへの旅(2016)』に関する記憶

そんな訳で今回は、『はじまりへの旅』です。

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『はじまりへの旅』本予告編


尚、この作品は個人的に、以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①子どもの教育について、悩みがある→Yes
②世が世ならば、ヒッピーに育ったであろうという自負がある→Yes
③理想のお葬式について考えたことがある→Yes

その心は…

(※劇中の台詞については、いささか心許ない記憶に頼ったものであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)

はじまりへの旅  【サントラ盤】

はじまりへの旅 【サントラ盤】



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ざっくり話すと、ご覧のとおり。
元ヒッピーの父ちゃんが山を買って、家を建てて。
自給自足で生活しながら、7~18歳までの子ども6人を在宅で教育していく。
という、お話なんですけどもね。

育児理念というか、教育というか。
内容が、すごいの。

毎朝、瞑想して、山の頂上までダッシュ。
その後、ガチなプランクとかバービージャンプとか。
ときには、天然の絶壁岩でロッククライミングとか。

自分たちで仕留めてさばいたお肉と、自分たちで育てたお野菜でごはんにして。
夜はたき火をしながら。
みんなで本*1を読むのね。

その後、誰かがギターをつまびけば。
誰かがカホンを叩いたり、タンバリンを鳴らしたり。
歌ったり踊ったりして、星空の下で眠るの。

一見、理想的でしょう。
すごく、よさそうでしょう。


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こんな毎日なもんだから。
子どもたちの体力は、アスリート並みだし。
6か国語もペラペラだし*2
物理も数学も哲学も、ちょっとした学説なんかだったら諳んじて言えるぐらい。
ナイフ1本で鹿を倒すのに3秒程度しか、かからないぐらい。

キャッシュ家の方針はね。
子どもたちが好奇心や疑問に対して、わりとオープンなのね。
「セックスってなあに?どうしてそんなことするの?」
って、7歳児に訊かれても。
なんら隠さず、具体的に説明するの。
死にも、ちゃんと触れさせる。

死にもセックスにも、蓋をしてない。
じゃあ何でもありなの?というと、そうではなくて。
タブーとされていることもまた、とてもユニークなのね。

●みんながわからない言葉は使うな。
だから、エスペラント語は禁止。
ドイツ語や北京語ならOK。

●「興味深い(=interesting)」という言葉は使うな。
なぜなら、具体的じゃないから。
ふわっとした、曖昧な言葉でわかったつもりになってほしくないんだろうね。

●食べるときは服を着ろ

その上で、ね。
ことごとく、自分の頭で考えさせようとするの。
しっかり解釈できているか確認するために。
自分の言葉で語らせようとするシーンは、いくつも出てくる。
これを重視することによって。
知識だけはすごいけど…っていう、頭でっかちな大人になることを防いでいるのね。

一見、理想的でしょう。
すごく、よさそうでしょう。


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でも、この理想的に見える教育も。
そのうち、ほころびが出てくるんだ。

最初に反抗的になるのは、レリアンかな。
食ってかかりかけて、父親から
「反論も受け付けるし、納得したら考えを改めるよ。どうぞ」
って言われるシーンがあるんだけど。

そこではね。
「…クッ」てなってなるだけで。
何も言い返さないの。

できるだけ具体的に、できるだけ自分の言葉で。
を、大事にするあまり。
具体化できない、もやもやとか。
口もききたくなくなるぐらいの、激しい怒りとか苛立ちとか呆れとか。
そういうものが、軽視されすぎているきらいがあるのね。

山から下りてきて、妹の家に寄ったときも、そう。

子どもには理解できないことから
皆を守っているの
 
子どもたちにウソをつけと?

それぞれのご家庭には、事情や教育方針があるのに。
それも重んじようとする気持ちが、ちょっと薄いの。

悪気はないんだよ?
ないんだけど。
いつでも、どこでも、我を通そうとしてしまうの。

あるいは、8歳のサージに権利章典を説明させるシーン。
すごくスカッとするシーンではあるんだけど。
帰るとき、その家の子たちに中指立てられちゃうのね。

いい/悪い、正しい/間違っているの基準は、人によって変わるでしょう。
いくら自分でいいと思っていても、自分が正しくても。
正しければ、何でもまかり通るって訳じゃない。

具体化できないもやもやとか。
口をききたくなくなるぐらいの激しい怒りとか苛立ちとか呆れとか。
何でも察しろっていうのは、わたしも好きじゃない。
甘えでしょう。
伝わらないなら、筆舌尽くして試してみなよって思う。

でもね。
いつでも、どこでも、我を貫いてると。
かなり、生きにくくなると思うの。

自分の個性を認めてほしいなら、相手の個性も尊重しないと。


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6人ともすごく、優秀だけど。
すくすく、のびのび。
いい子に育ってると思うんだけど。

同年代と、話合わなすぎるでしょう。
ナイキやアディダスの会話の噛み合わなさとか、コントみたい。

逆に、彼らが俗世の同年代の子と話してて。
「えっなんでチョムスキーおじさんも知らないの!?」
って思うだろうし。
そういうことってつい、顔にも口でも出てきちゃうでしょう。

周囲からも、煙たがられて浮いちゃいそうだし。
周囲を見下すような嫌な育ち方しちゃうかも。

うーん…。
社会に出てからすごく、苦労するだろうなー。

君が出す課題をクリアしても
あの子たちは社会に出られん
 
その逆もまた真なりです

完璧な育児とか、完璧な教育とか。
そんなものはないのかも。


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ベンはいいよ。大人だから。
社会でいろんなものを見て、経験して。
その上での、この選択だから。
でもね

いくら、子どもたちの自主性を重んじていても。
いくら、スーパー父ちゃんでも。
教えられるものは、父ちゃんフィルターを通したものだけだよね。

教える人が一人しかいないんだから、これは当たり前のことなんだけど。
価値観に偏りがあること。
そして、小さい頃からその価値観にしか触れられないこと。

ある意味これは、こわいことだ。

俺たちの生活が最高?
パパが完璧だと思うの?

俗世との関わりを断って、山に籠もる。
というのは実は、密室状態に似ているかも。
そんな環境で、小さい頃から繰り返し偏った思想に触れていると。
洗脳に近い状態にも、なりかねない。

どんなに素晴らしい思想であっても。
偏りがある。
他に選択肢がない。

これはすごく、危険なことだ。

何も知らないよ
父さんのせい
本で学んだこと以外は 何も知らないんだ

カルト宗教なんかがコミューンから生まれるのも、ね。
なんとなく、わからなくもないなーって


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山から下りて、旅を続けるうちに。
俗世と接しながら、だんだん、疑問を持つ子が出てきたり。
少しずつ、彼らの言葉で伝えられるようになったり。
いろんな事件が起こったり、問題が明るみになったりして。
そして

だんだん、ベンも間違いに気づいてくるの。

その上で、その後で。
お母さんのお弔いのシーンがすごく素敵なんだよこれ。

お葬式に乗り込むときにこのファッションっていうのも、相当イカしてるし。
(他の弔問客はもちろん、全員黒の喪服)

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お母さんの遺言も、相当FUNKY。

いいなー、いいなー。ああいうお弔い。
わたしのときは、どうしようかなー。
そうだなー、そうだなー。

写真つながりの友達に、いっぱいわたしの写真を撮ってもらってるからなー。
遺影は1枚だけ、なんてケチなこと言わずに。
せっかくだからそれぜーんぶ、飾ってもらおう。

遺影祭りにしよう。

好きな洋服で、来てもらおう。
Tシャツが楽だったら、それでいいし。
お洒落したかったら、めいいっぱいおめかししてきて。

お酒はいっぱい、用意しよう。
お料理は大好きなお店から、おいしいものをがっつりケータリングしよう。

弔辞は、ラップでいいよ。
バルカンブラスのバンドを呼んで、ぶんちゃかぶんちゃかしてもらおうよ。

歌って、踊って。
お腹がはち切れるぐらい、おいしいもの食べて。呑んで。

はー。おもしろかった!
ぴのこらしかったねー。
じゃあね。ばいばい。

これが、わたしの個性。
だから、あなたの異論も大事にするよ。

チョムスキーの「アナキズム論」

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アイリッシュ・ダンス・ミュージックの名手たち

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*1:読んでる本も、『カラマーゾフの兄弟』、『銃・病原菌・鉄』、『宇宙を織りなすもの』、『ミドルマーチ』…すごすぎて、1周しておもしろくなってくる。

*2:なんならエスペラント語なんかも喋れるし