うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『夜空はいつでも最高密度の青色だ(2017)』に関する記憶

そんな訳で今回は、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』です。

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『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』予告編

尚、個人的には、この作品は以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①最近の映画って、大ヒット原作に甘えすぎじゃね?と思っている
②「お前、変だよ」とよく言われる→Yes
③耐えられないほどではないけど、いつも淋しい。ほんのり悲しい→Yes

その心は...

(尚、劇中の台詞については耳コピであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)


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ねー。
漫画でもラノベでも、ヒットするとすーぐ実写になるよねー。

この前なんてさ。
映画館って、始まる前に予告が流れるでしょう?
あれがね

銀魂JOJOハガレン、斉木楠雄...って続いて。
役者もかぶりまくってて。

もう、ええわ ... !!!
ってなりましたー*1

さて。そんな中、この作品ですが。
最果タヒの詩集を元に作られているそう。
今日び詩集で27,000部売り上げるって、どんなモンスターだよ!!!

「原作」と言っても、詩は物語ではないので。
この映画は、彼女の言葉からインスピレーションを得て。
発想を拡張した作品なのだけれども。
すごく、合っていると思う。

都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ
塗った爪の色を君の体の内側に探したって見つかりゃしない
夜空はいつでも最高密度の青色だ

詩はね、モノローグ的に使われるんだよね。
詩と独白って、すごく親和性あると思う。
だってみんな、Twitterにポエム書きたいでしょう。

え。書かないの?
さっそく書いたよ?わたしは

ひゃー!明るいところで見るとより寒いね!これ
いいよいいよ。わたしのことはいいよ。

そんなことより。
この映画の中での、詩の使われ方のすごいところはね

物語からまったく、浮いてないし。
台詞ともちゃんと、つながってる。

これが実に、上手なんだ。

ある意味詩の宿命のような、仰々しいわざとらしさはほとんどないの。
どうしても詩がまとっている、こっぱずかしさもそれほど感じないの。

あーいいなーうつくしい言葉を浴びるのって。
しあわせだなーきれいな言葉に包まれるのって。

と、いうように。
余計なツッコミをせずに、ただただ快感に浸れるの。
言葉に集中できるの。

これはよい二次創sコラボレーション。


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さて。役者の話をしてもいーい?(※いいよー

これねえ、これねえ...
あまりにもあまりにも、池松壮亮が素晴らしい。

急に喋り始める、落ち着きのなさとか。
それをたしなめられると目が泳いで、叱られた犬の顔になるところとか。
何度か出てくる「え」って台詞のタイミングとか。

鳥肌立った。
息詰めて、見ちゃった。

ルックスも、ね。
このもっさい髪型とか...優勝でしょう。
あと、慎二は首回りがよれっとしたTシャツをよく着てるんだけど。
そこから覗く、デコルテの薄さがね...

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なんかこう...いいんだよ。男子って感じがして。(※伝われ ... !!!

だって、男物のTシャツは首が詰まってるものが多いからね。
メンズのデコルテってなかなか、合法的にガン見できないんだもの。
わかってほしい。
わかって、ほしい。

相手役の石橋静河も、ね。
これがデビューらしいけど、美香役にすーごく合ってた。
彼女の抑揚のない声も表情も、この映画にはとても合ってた。

「え、待って待って」の応酬のあのシーンなんか、全然見劣りしてないもの。
立ち上がって、拍手したかったぐらい。
ずっと見ていたかったぐらい。だって

絶品なラリーって、拍手したり声上げたりしたくなるでしょう。
ずっと見ていたいでしょう。

あの感じ、あの感じ。


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あと、そうそう。
岩下さんのキャラがとにかく最高なんで、その話もさせて。(※いいよー

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現場仕事なのに、重度の腰痛持ちで。
年下からも、あからさまに「使えない」扱いされてて。
ソーシャルウインドウからは、いつもなんか見えてるし。
呑みに行っても、絶対自分で払わないし。

はじめのうちはね。
もうやだこのおじさん...ってなるんだけど。
なにが恋だよまずはチャック閉めとけよ ... !!!ってなるんだけど。

あれ?変だねおかしいね。
どんどんどんどん、かわいく見えてくるの。

でも、幸か不幸か俺は生きてるんだよ
恋もしてる
お前も生きてる
ざまあ見やがれ
ざまあ見やがれ、って言ってやるんだよ

あれ?変だねおかしいね。
どんどんどんどん、かっこよく見えてくるの。

こういうキャラに出会えるとね。
あーわたし映画好きでよかったなーってつくづく感じる。
だってさ...

明日から、街でもうやだおじさんに出会っても。
少ーし、優しい目で見ることができるでしょう。

あ。岩下さんこんにちはー!
今日はちゃんとチャック閉まってるじゃないですかー
すごーい!えらーい!

って気持ちになるでしょう。だから。

現実世界ではまったく、理解できない存在でも。
そういう側からの事情も描かれたりするからね。映画って

そうだよねえそうだよねえ
みんな、いろいろあるよねえ
大変だよねえ

って、生ぬるーく許せる気持ちになる。ちょっとだけ

映画だけでなく、漫画もアニメもゲームも含めてすべての芸術は
あーおもしろかった!で終わるのももちろん、いいんだけど。

日常のふとした瞬間に
「あのとき描いてあったことって、実はこういうことかも」
って、急に落ちてくることがあるでしょう。

あれ、いいよね。
その後の人生にも、ちゃんと効いてくると。
わざわざ体験してよかったなーって思う。


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あとね、あとね。
画にしても、音にしても。
加工の表現がすごく、いいんだよね。

ただ、かっこいい。
ただ、きれい。
ってだけじゃなくて。

ううん、いや。
むしろ、うっすら素人くさいような。
少しだけ、違和感を残してあるの。

左半分が真っ黒な画も、そう。
居酒屋の喧噪の中で急に音が消えるところも、そう。
火が点いた煙草から繋がる先も、そう。
アニメーションから散り桜だけ重ねてあるところも、そう。

ん?あれ?って引っかかるんだけど。
そこにはちゃんと意図があるの。
伝えたいものがあるの。

そこに気づくと、興奮するよ。感動するよ。

それから、タイトルロゴが芸術品です。
あのフォント、ため息でちゃう。
見とれちゃう。


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さて。今回のこの慎二と美香だけどね。
最初はこの二人、似てるように見えるのよ。
二人とも、「喋ってないと不安」だしね。

「嫌な予感がするよ」
「わかる」

でも、そうだなあ...
美香の方がより、ドライかも。

君が可哀想だと思っている君自身を誰も愛さない間
君はきっと世界を嫌いでいい
そしてだからこそ、この星に恋愛なんてものはない

それは、彼女が人の死を見過ぎていることと、
彼女の幼少体験が影響しているのね。

愛についても、死についても。
「どうせすぐ、終わっちゃうのに」
「どうせまた、捨てられるのに」

そういう人生観なのね。彼女は

愛って言葉を使うと、口から血のにおいがしない?
愛は今までさんざん人を殺してきたから
血のにおいがする


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だからね。
美香の「嫌な予感」というのは、「虫の報せ」的なものではなくて。
心のシールドとか鎧のようなものだと思うの。

誰かを好きになっても、いつか別れることになる。
愛されたい人からは、いつか捨てられる。
大切な人は、いつか突然いなくなる。
今日もどこかで何かが起こって。
また誰かが、死ぬ。

今までもそうだった。
これからもきっと、そう。

だから、またそんなことが起こっても。
もう傷ついたりしない。
泣いたり、わめいたり。
取り乱したりなんか、しない。

うん、わかるよこれ。
すごくよく、わかる。

そうやって平気な顔をしてないと。
「こんなこと、なんでもない」って思い込んでいないと。
ハートが、もたない。
とてもとても、耐えられない。

でもね。この処世術には穴があって。それは
まだ起こってもいない「嫌なこと」を恐れすぎて。
すでに目の前にある「とてつもなくいいこと」が見えなくなること。

これは大きいよ。
同じものを見ていても、同じ時間を過ごしていても。
幸福度がガラッと、違ってくる。

「とりあえず、募金しよう」
「うん、そうだね。募金しよう。
 朝起きたら「おはよう」って言おう。
 ご飯食べるときは「いただきます」って言おう
 そういうことだよね?」

うん、うん。
そういうことだよね。


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なので、「恋愛映画」とあるけれども。
ベッタベタのキラキラでは、ない。
全然、ない。
感動して大号泣とかも、ない。

恋愛映画にそんな興味ないような人でも*2
共感できる淋しさとか孤独感が、ここにあるの。

たまたまこれは、恋人同士の話だけど。
友達同士に置き換えても。
家族間に置き換えても。
師弟関係に置き換えても。
わりと、通用するようなテーマのような気がするよ。

たしかにね。
すごい偶然がやたらと重なったり。
「どこから見てたの?」ってぐらいのすごいタイミングで
いちばんほしい言葉をもらえたり。
「恋が始まりそうな二人あるある」もちゃんと起きてるんだけど。

でも、だからといって。
あっさりそこでよろめいたり、しない。

そこがいいのこれ。
キスシーン、ないよ。
セックスも、見せない。
そういうの、一切出てこない。

その代わりにね。
関わりの深い存在でも、そうでなくても。
守られるべき存在でも、そうでなくても。
ゴロゴロといろんな死が、隣り合わせにあって。

ずっと、淡々としてるの。
終始、低温なの。

その空気がまさに「最高密度の青色」なの。

この色、この温度、この空気、この気持ち...
わたしの中にはずっといたなー

あなただって、そうじゃない?
この青は、きっと知ってる。

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*1:そういいながらも、どれかは観るけど

*2:何を隠そう、わたしもそう。