どうも、あなたのぴのこです。
今回は、こちらのお話。
尚、このお話は、以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。
①夏休みは実家に帰るつもりだけど、実のところ気が重い→Yes
②近しい仲にユーモアセンスが寒い人間がいて、正直めんどくさい→Yes
③毎日生きている意味が見出せていない→Yes
その心は...
(※劇中の台詞については、いささか心許ない記憶に頼ったものであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
わたしもね。
父親に言ったことあるよ。
ある時期の父親の心配が、ちょっと度を越していて。
わたしやわたしの周囲に、実害が出てきちゃうようなことがあったんだよね。
そのときに、言ったの。
「あんまり心配しすぎるの、やめて。
自分が何もできないダメな人間に思えてくる*1」
って。
「心配するのは勝手だけど、押し付けるのやめて」
って。
ひどいかな。
ひどいかも。
だからね。
「いつまでたっても、子どもは子ども」って理論はあまり好きじゃなくって。
だって、親が正しいとは限らないことなんて。
「今はそんな時代じゃないんだよ」って思うことなんて。
自分が大人になったら、山ほどあるもの。
そういう立ち位置から、この映画を観たの。
そしたらね
「お前の好物だったよな」って実家から送られてきた荷物を開けたらざっくざくのクッキーが丸々1缶入ってて。たしかに好きだったけどおとんこれ賞味期限明日までだからーーー！！！みたいな話だった。(※個人の感想です) #ありがとうトニ・エルドマン
— ぴのこ a.k.a アスパラまみれ (@pinocorita) 2017年7月21日
はい。これが、一度目に観た直後のわたしの感想です。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
このお父ちゃんは、うちの父親よりさらにすごい。
いろんな人に、いろんなシーンで。
何回も何回も何回も、さまざまなジョークを発するんだけどね…
1個も、笑えない。
ほんとに、ただの1個も。
見事に全部、寒い。
見事に全部、滑ってる。
かつら、ヘンです。
スーツもあんな赤光りすんの、どこに売ってんだよ。
入れ歯はね、「あの歯www」ってみんな言ってるものの。
一回目に観たときは、わたしはそこまでの違和感がわからなかったんだけど。
二回目に観た後で気づいた。
あれたぶん、わかりやすく置き換えると
明石家さんまの差し歯ををずっとつけてるようなイメージなんだわ。
そういえば、欧米って歯で面接落ちるって聞いたことがある。
八重歯に至っては、日本ではチャームポイントだけど*2。
「なにあのガッタガタの歯www」って扱いだって。
だからみんな、歯から治すって聞いたことがある。
うんとね、ごめんね。
また一つ、ひどいこと言うよ。
「親がはずかしい」というのは、子にとってかなりキツいんだ。
わたしだったら、そうだなー…
腹から出しうるもっとも低い声で。
「パパ、やめて(真顔)」
って言っちゃう。
もちろん、娘のイネスもそうするよ。
何度となく、伝えてる。
でも父ちゃん、やめないの。
まったく、やめようとしないの。
正直、うざいです。
うざすぎて、胃が痛くなる。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
娘のイネスは、バリキャリなんだよね。
父ちゃんとはしばらく、離れたところで暮らしてたみたい。
むっちゃくちゃ仕事できます。
できるけど…
いろいろと、ドライすぎて。
やや人間性が破綻しているきらいがあるんだよね。
代わりの娘を雇った
よかった
代わりがいれば私も楽よ
彼氏にすら、こう来る。
仕事が大事なの
一人でヤって
お菓子に飛ばして当てて
食べるから
彼氏の尊厳ー！！！
そんな娘なもんだからね。
父ちゃんもつい、言っちゃう。
お前は人間か？
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
でも、そんな言葉もね。
しばらくは、響いてないみたい。
慣れとか環境も、あるのかな。都会だしね。
だって、廃止予定の現場を見学に行くときなんか、すごいよ。
リストラされる側の人たちの実態を目にしてもね...
人間らしい反応してる人、父ちゃんしかいない。
でも、父ちゃんはね。
イネスがどんなことを言っても、どんな行動をしても。
叱ったり、説教したりはしないんだ。
感じた違和感はつい、顔に出ちゃうんだけど。
「お前は間違ってる」とは言わない。
自分の意見を押し付けたりもしない。
お前は何でも完璧だよ
お見事だ
イネスが友達との女子会で「最悪な週末自慢」してるときもね。
彼女はがっつり父親の悪口を言うんだけど。
父ちゃんは、最後まで全部聞いた上で。
ドッキリのごとく、彼女の背後から急に現れるのね。
あそことかほんと、胃がきゅうううってなる。
「パパったら異常よ！」
って、イネスが父ちゃんのことがんがん殴るときもね。
叱りもしない。
もともと猫背な背中をいよいよ小さくして。
ただもう、なんとも言えない顔してるの。
あの表情も、胃がきゅうううってなる。
おやおや、あれれ？
わたし、どっちの味方なんだっけ？？？
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
わたしも随分、考えちゃった。
なんでこの父ちゃん、ここまで言われて。
イタズラをやめないのかなー？って。
それで、一つの仮説なんだけど。
あのへんちくりんなカツラと、入れ歯と、スーツはきっと。
父ちゃんにとって、仮面なのかも。
たぶんね、おそらくね。
冗談だったんです
休暇で来てました
シュヌックは私の娘です
娘が心配で 様子を見に来たんです
でも 難しいんです
そうね、家族って...
父ちゃんはたぶん、素面では口下手なんだ。
たしかに、ひさしぶりに会う娘なんて。
距離の取り方がむずかしいだろうしね。
あの仮面をつけたときだけ、娘とちゃんと向き合える気がするのかも。
ここにいて幸せか？
どういう意味？
「幸せ」って強烈な言葉よ
生き生きと暮らしているか
そういうパパにとって生きている意味って何？
とっさには答えられない
お前を心配しただけだ
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
一方、イネスもね。
仕事はなかなか、思い通りに進まないし。
キャリアの希望も、なかなか通らないし。
父ちゃんはあんなだし。
彼氏は頼りにならないし。
徐々にいろいろ、たまってきたんだろうね…
ストレスがMaxになって。
ある日突然、ぶっちりキレるんだよね。
それがね。
若干、引くようなキレ方なの。
ちょっと、社会復帰が心配になるような。
で、当のイネスは、というと。
「あ。これジョークのつもりなんですけど、なにか」
って顔をして、開き直っちゃってんの。
普段はバリキャリのイネスだよ？
みんな、当惑するよね。
おずおずと、乗ってくる人もまあ、いるんだけど。
「正気なの？」っていぶかしむ人がいたり。
「頭を冷やせ」ってたしなめる人がいたり。
そこで、イネスも初めて。
父ちゃんの気持ちを理解できたのかもしれないよね。
一旦、立場とか今抱えている案件とか、強制的にぜーんぶ脇に置いてみたら。
逆に、人間らしい気持ちを取り戻せたのかもしれない。
で、そんなときに会いに来てくれた父ちゃんが
またまた特大の仮面をつけていてくれたおかげで。
初めて、素直になろうと思ったのかもしれないよね。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「信じていれば、夢はきっと叶う」とか。
「愛し続けていれば、いつかきっと伝わる」とか。
そういうのはもう、そうじゃないケースもたっぷりと見すぎてて。
わたしは全然好みじゃない。
きれいごとばかり、言わないでよ。
おとぎ話じゃ、ないんだからさ。
でも、それでも、「パパ！」の後のあのハグは
たっぷり30秒以上ある、あのハグは…
わたしのような娘でも、クるものがあったよ。
突然うっかり伝わる愛も、あるんだ。すごい。
父ちゃんは、何の見返りも要求してないよね。
ただただ、イネスに元気になってほしいだけ。
しあわせでいてほしいだけ。
で、それを伝えるために、あのイタズラをやっちゃうんだよね。
表現方法がアレだからといって、愛まで否定しちゃだめなのかも。
愛しているから、親だからって、なんでもしていい訳ではないんだけど。
逆に言うと。
それと、愛のありがたさはべつのことなのかも。
どうせどっちかが死んじゃったら。
どっちかの知覚が頼りないことになっちゃったら。
もっと伝えておけばよかった...って後悔したりするんだきっと。
いなくなってから、ありがたみに初めて気づいたりするんだきっと。
そしたらもう、いつかうっかり伝わっちゃうかもしれないんだから。
いつか急に理解できちゃうかもしれないんだから。
ほんとは、あ！って思ったときに伝えておいた方がいいのかもしれないよね。
パパ、愛してるよ。って
パパ、ありがとう。って
他人同士じゃないから、むずかしいんだけど。
他人同士じゃないんだもの。
父と娘だから、むずかしいんだけど。
他でもない、父と娘なんだもの。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
わたしがこの映画の中でいちばん好きなところは、最終章でね。
序盤のシーンと、環境的にはほとんど変わらないのに。
イネスの顔が、態度が、全然違う。変わってる。
ちゃんと、剥けた顔してる。
困ったことに みんな成果ばかり重視する
義務に追われてるうちに
人生は終わっちまう
時間は止められない
(中略)
あとで大切さがわかる
でもその瞬間は...分からない
ラストのあの表情。
イネスは何を思い浮かべただろうね。
これだけイタズラ好きの父ちゃんが
「今日は笑えん」と断言したこの日に。
