うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『三度目の殺人(2017)』に関する記憶 - 「これほんと?それとも、ほんとだって信じたいだけ?」と考え始めたら、足元からぐあんぐあんしてきたお話

どうも、あなたのぴのこです。

そんな訳で今回はこのお話。

f:id:pinocorita:20170919004456j:plain


『三度目の殺人』本予告 9月9日(土)公開

尚、この作品は以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①サスペンスよりも人間ドラマが好きだ→yes
②是枝監督の新作は待ち焦がれていたけど、また福山かーい!広瀬すずかーい!?と思っている→Yes
③グレーなニュアンスを汲み取るのは得意だ→Yes

その心は……

(※尚、台詞については耳コピであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

是枝作品ってね。
今までわたし、なに観てきたっけ???
と思って確認してみたんだけど

・『誰も知らない』
・『空気人形』

以上。少なっ!
なんぼ「なんちゃら受賞作」に興味がないにしても、少なすぎるだろ!!!

そうだよなあ、そうだよなあ。
そして父になる』『海街diary』とか。
すこぶる評判がよかったのは、知ってたんだけど。

あの……ごめんなさい……わたしちょっと……
TVドラマで活躍している人が映画で主役やるのって……いまいちこう……信頼感が薄い
というか……なんというか……

ごめんなさいごめんなさい。
完全に偏見で、ごめんなさい!
ちっさいやつで、ごめんなさい!
頭固くて、ごめんなさい!!!

その上、今回のこれは「サスペンス」という。
またわたしが、普段もっとも手を伸ばさないジャンルなもんでね。

なんでだろう……?
グロは好きなのに。
血ドバシャー!だろうが臓物バイーン!だろうが、ばっち来ーい!
なのに。
推理小説をあんまり読まないからかな。

そんな訳で。
9月に入ったばかりのわたしの気分はこんな感じでした。

だからね。
わたし、好きかなー?これ
どうかなーどうだろう?これ

って、劇場に行く前はかーなーり不安だったのですけれど。

結論から言うと。
観て、よかったです。
すごく、すごく。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

まずね、役所広司演じる三隅ですよ。
彼の演技がやっぱりどうやったって、素晴らしくって。

特に、焚き火(※と、あえて言っておく)しているときの三隅の顔!
なんて表情するんだよ… !!!
開始数十秒で持ってかれたよ……。

ほっとしているようにも見えるけど。
悲しんでいるようにも、自嘲しているようにも。
怒っているようにも、見える。

「ざまーみろ!」ってすごい悪人面にも見えるし。
憑き物が落ちて、さっぱりとした顔にも見える。

予告の0:57ぐらいに出てくる表情です。
この顔のこと。
憶えておいてね。
あとでもう1回、話すから。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

さて。彼の弁護をするのは、福山雅治演じる重盛なんだけどね。
すごくやり手なんだろうなー……ただね。

正義感がそんなに感じられないし。
真実への執着も、ない。

理解とか共感とか
弁護するのにそんなのいらないよ
 
そうなんですか?
 
そりゃそうだよ
友達になる訳じゃないんだから

どっちが本当かなんて、どうせわかんないんだから
だったら、より役に立つ方を選ぶ

勝てりゃあいいんだろうなー彼は。

なもんで、検察官や同僚から
「お前みたいなのが犯罪者が罪と向き合うのを妨げるんだ!」
って言われちゃうのね。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

で、物語はね。
三隅の三度目の殺人についての裁判員裁判に備えていくところを追っていく訳です。

ん?裁判員裁判???

裁判員裁判とは、抽選で選ばれた一般市民が「裁判員」となって、裁判官と一緒に刑事被告人が有罪であるか否か、どれくらいの刑を課すべきかを決める制度です。
 
(※裁判員裁判とは|刑事弁護フォーラム|弁護士以外の方へ - 刑事弁護フォーラムより引用)

ああ、これかこれか。
また名前を失念していたけれども。(※がんばれーわたしのシナプス
導入のとき、すごくニュースになったよねこの制度。

で、その準備のために重盛たちが何度も面会に行くんだけどね。
まーあ、この三隅の言うことがね……コロコロ変わるんだ。

「前回はこう言いましたよね?」って指摘されても
「憶えてないなー」なんてすっとぼけるし。
「殺しました」「間違いありません」って言うときも、やたら軽い。
けろっとしてる。

なんなんだ、こいつは!?って思う。
弁護側でさえ手を焼くのも、わかるわかる。
めちゃめちゃ、イラッとくるもん。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

でも、見ていくうちにね。
重盛たちにも違和感が出てくるの。

まず、誘導尋問がすごい。
事件直後に三隅が乗ったタクシーの、ね。
ドライブレコーダーを確認しているときとかも。

窓を開けた。という画だけで
「ここ!何か臭ったんじゃないですか?」
「そういえば、ガソリンの臭いがしたような……」
「ここで彼が出した財布が臭ったんじゃないですか?」
と、せっついてくる。

いいの?これで?

あるいは、殺人の動機について。
三隅が「美津江(被害者の妻)にそそのかされて」と供述を始めたときもね。
二人がどういう関係だったのか?って、確認しなくちゃいけないじゃん。

そのときにね。
「肉体関係はあったのか?」って訊かれて。
三隅が「いやぁ……」って頭を掻いた。というだけで
「あれは絶対やってる」ってなるの。

「じゃなきゃ、あんな照れ方しないだろー?」って。

愛人関係についても、ね。
「(美津江の)顔見ただけでピンと来た」とか言われちゃうの。
あれは絶対そういうことしそうな女だ。的なニュアンスで。

いいの?これで???

裁判の前にもね。
面会のたびに、打ち合わせをするんだけど。
「こう訊かれるから、こう答えてください」
っていうのが何度もあって、練習したりするのね。

準備が必要なものは、たくさんあるからね。
急に予想外のことが起きると、対応しきれない。
というのは、もちろんあると思う。

それにしても、それにしても。
「勝手なことしないでくださいよ!」の釘刺し感がすごい。

そういう、裁判前の打ち合わせがね。
だんだん、だんだん、ネタ合わせみたいに見えてくるの。
こんな出来レースなの?裁判って……。

いいの?これで?????


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

その後、三隅の供述は二転三転してね。
さらに、「そもそも」が覆るようなことを言い出すの。

えー!そこからー!?
ってなるじゃん。
また、やり直しだよー!
ってなるじゃん。

それが、ねえ……ここでも裁判官は、
いいの?これで?????
という選択をするの。

でね。この辺りの台詞でね。
「訴訟経済」という言葉が出てきて。
知らない言葉だったので、ちょっと調べてみたんだけどね。

訴訟法の根底にある一つの理念で,訴訟の審判に関して裁判所と当事者その他の関係人の労力,時間,経費などの負担をできるだけ節約しようという要請。
これは訴訟法規の立法,解釈,運用において考慮されなければならないが,裁判の適正・公平の要請との調和をはかる必要がある。
 
(※訴訟経済(そしょうけいざい)とは - コトバンクより引用)

「日本の裁判は時間がかかりすぎ」って、ずっと指摘されてきたもんね。
そのせいなのかな。
でも、それにしても……そうは言っても、ねえ……?

三隅が殺してないって誰も信じないんですね

仕方ないよ
裁判官だって数こなさないと評価に響くし

うわー!うわー!こわいこわいこわいこわい……


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

なので、普通のサスペンスだと思って観てたら、びっくりしちゃった。
この映画のこわいところはね

起こった犯罪でも。
罪を犯した犯罪者でもなくて。

塀の外の世界なんだ。ってこと。
つまり

わたしたちが住む世界だってこと。

あの人の言った通りでした
ここでは誰も本当のことを話さない
 
誰を裁くかは
誰が決めるんですか

彼らの意思とは関係ないところで
命は選別されてるんですよ
理不尽に

こんな状態でも、刑を確定して。
言い渡しちゃうんだよ?っていう……

こわいこわいこわいこわい......


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

これ観た人は、ね。
「……で結局、三度目の殺人の犯人は誰なんだよ?」
って、もやもやする人も多いと思うんだ。

でもね、これね。
たぶんこの映画はね

そこを意図的にわからないようにしてあるんだと思うの。

向き合う?
そんなことしてないでしょ、誰も
いろんなこと見て見ぬフリをしなきゃ
生きていけないじゃないですか
そっちじゃ

その人が信じるものが、真実。
いや……もっとはっきり言おっか。
その人が都合よく料理できるものが、真実。

物語の中で何度となく出てきたこのことを、ね。
観客に、追体験させてるんじゃないかと思うの。

だからこその、冒頭の三隅の焚き火シーンの三隅のあの表情なんだと思うの。
よく言えば、複雑な感情が溢れ出ている表情なんだけど。
悪く言えば……

観た人が都合よく、どうにでも取れる。

あなたがね。
「こいつぁ、悪いやつだ」って思ったら。
犯人は三隅なのよ、きっと。

でも、あなたがね。
「いやいや、かわいそうな人だって!ほんとは優しい人なんだって!!!」って思ったら。
犯人は三隅じゃないのよ、きっと。

カナリアが一羽だけ逃げた」って
あれ、ほんとは僕がわざと逃がしたんですよ*1
僕がしたみたいに
人の命をもてあそんでる奴がいるんでしょうか
いるなら、会ってみたい
会って、言ってやりたいんです
「理不尽だ」って


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

あと、もう1個。
見ものなのがね……重盛の変貌なの。

さっきも少し話したけど。
もともとは彼、真実を知りたいだなんて、ちっとも思っていない男なのよ。

それがね、面会を重ねるにつれ。
一歩一歩、近づいていくの。

たとえば、そうだなー

面会の始まりでね。
「雨降らなくてよかった」
「寒いですね、今日は」
って、なんてことないお天気の話をするのはいつも三隅の方からだったのに。

最後にはね……

桜がね
マンションの前の蕾がこんなに大きくなって
もう咲きそうなんですよ

お天気の話を切り出すのは、重盛からになるの。
わたし、ここでアホほど泣きました。(※えっなんで???えっえっ

気候の話ってさ、あたりさわりのない話題だから。
「スモールトークのきっかけにいい」とされているでしょう。

でも、ここの桜の話はね。
「寒いですね」「暑いですね」
「雨ですね」「晴れましたね」
っていう、「一般的」なお天気の話じゃなくて。
お互いの出身地の話を絡めたりなんかしながら、続いていくのね。

いつのまにか、無難なつもりの話題から。
「わたし」と「あなた」との話になってるの。

「犯罪者が罪と向き合うのを妨げる」とまで言われてきた重盛が、だよ?

依頼人という「属性」じゃなくて。
三隅という「個人」に対して。
この事件の「真実」に対して。

どんな気持ちを抱き始めたんだろうね。
留萌の桜の話をしながら。

そういうのを妄想し始めたら.......

ね。ほら。
アホほど泣いても許してもらえる?


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

好きなシーンはまだまだ、あるよ。

面会のシーンが7回だったかな?
あるんだけど。

面会室って、ほら。
あちら側とこちら側をガラス?アクリル?みたいなので遮ってあるじゃん。
名前がわかんないんだけど……こういうやつ↓

f:id:pinocorita:20170919002123j:plain

最初は、弁護側と三隅の間にわかりやすく壁があるのね。
すごく鮮明に、はっきり、映ってる。
重盛と三隅もね。
最初は真正面から対峙してるの。
距離だって、けっこうあるの。

それがね、物語が進むにつれ。
壁がぼんやりしてきたり。
まるで存在しないかのような撮り方をするの。

最後なんて、映り込みをうまーく使って、同じ角度から見せて。
強弱をつけながら。
重盛と三隅、まるで二人が重なりそうな撮り方をしているの。

それだけで。
あれだけドライだったら重盛が真実を求めて。
三隅に、真実に、触れようとしているのが伝わってくるの。

二人の演技も十分、凄味があるんだけど。
カメラの表現でも、迫ってくるの。
伝わりすぎて、ぎゅうっとなる。

息詰めて、観ちゃう。

でも、いい話ですね
それはいい話だ
もし今、重盛さんが話したことが本当なら
こんな私でも、誰かの役に立つことができる

ああ、もう。
ああああ、もうううう......


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

中国だったかな?の象に触る盲人のエピソードも素敵だったよね。

でも今、俺はどこ触ってんだろうな
裁いたのか、救ったのか

あとは、そうだなあ、そうだなあ……。

裁判所を出た後、真っ赤な夕焼けが映った重盛の顔。
そこで頬を拭う重盛。

あれ?この仕草どこかで見たような……

みんなが是枝作品で好きなのって。
きっと、こういうところなんだろなー

ね。
わたしも「ほんと」をたくさんたくさん、見逃してきたのかも。

*1:ここでの役所広司の演技がほんとに、すごい……姫川亜弓エチュードかと思ったわ!