うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『エンドレス・ポエトリー(2016)』に関する記憶 - 88歳のおじいちゃんに全肯定されて恐怖が消えたら、生まれて初めて親に心から感謝したお話

どうも、あなたのぴのこです。
そんな訳で今回は、『エンドレス・ポエトリー』です。

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映画『エンドレス・ポエトリー』予告編

尚、このお話は以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①自分の中のアーティストと、どのようにつきあったらよいのかわからない→Yes
②年を取ることがこわい、老いとどう向き合ったらいいいか、わからない→Yes
③親と確執がある、自分がやりたいことについて、いまだに親の理解を得られていない→Yes

その心は…

(※劇中の台詞については、いささか心許ない記憶に頼ったものであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)


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さて。
「自分の中のアーティストとどうつきあっていくのか?」
って書いたけどね。

俺はわたしは、芸術家じゃないから、関係ないわ…
って、いやいやいや!ちょっと待って。
そんなこと、言わないで。

おおげさなことじゃなくても、いいんだよ。
毎日ごはんを作ることだって、創作です。
お皿を洗いながら、洗濯ものを畳みながら。
テキトーな鼻歌が出ちゃったら。
それもう、全部芸術でしょう。

同じスマホで、同じものを撮ったって。
同じ写真にはならないでしょう。
インスタにアップしたら、それだってもう立派な表現です。
ブログだって、そうじゃない?

なにかに美を感じたなら。
自分の中に、表現したいなにかがあるのなら。

あなたはもう、アーティストなんです。

あなたの中にもきっと、いると思うんだ。
ちいさなちいさな、アーティスト。


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ただね。
このちいさなちいさなアーティストってね。
外の声に、弱いんだ。

「それで自分がうまいとか思ってんの?バカじゃないの」
「もっとうまい人間どれだけいると思ってるの」
「その程度で食っていけるとか思ってるの」
「そんなことを続ける人間は○○だ」…

こういう声に、すぐしゅうんとなっちゃって。
創作を、表現を、やめたくなったりしちゃうでしょう。

このちいさなちいさなアーティストを守るために、ね。
大切なことを2つ、監督は伝えてくれているの。

1つは、励まされます。
すっごく、元気が出る。

「君の属する世界に戻りたいと靴が教えてくれる」
「でも、無理ですよ」
「子どもの心が残っているのなら
 間違いなくできる」

もう1つは…厳しい…かな?

主人公のアレハンドロがパリ行きを決意する理由なんかも、ね。
かなり、ストイックなの。
でも…そうだな。

アーティストは、孤独なんだ。
生き抜くことって、孤独なんだ。

だから、物語の中でもね。
たくさんの「さよなら」が描かれているの。

でも、そのまま。
孤独なままで。

あなたはあなたのやりたいように、突き進みなさい。
なにも、間違っていないから。

そういうことが強く、描かれていて。
すごく、元気が出るのね。


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元気が出るといえば、もうひとつ。

この映画はね。
老年期のアレハンドロが若き自分を励ますシーンが、何度も何度も出てくるのね。

自分を生きるのは罪じゃない
他人の期待どおりに生きる方が罪だ
 
頭は質問をしているが
心は答えを知っている
意味などない
生きるだけだ
 
生きろ!生きろ!生きるんだ!

すべてに無がある
時間の無駄だ
 
すべてに命がある
傷ついたのは君じゃない
自分で作ったイメージだ

死んで、「無」になること。
こわくないですか。

腐って土に還って、「無」になること。
わたしは、こわかった。
めちゃめちゃ、こわかった。

老いて、「無」に近づくこと。
こわくないですか。

老いて醜くなって、身体が動かなくなること。
わたしは、こわかった。
めちゃめちゃ、こわかった。

なのでね、だからね…

老いはなんら屈辱ではない
すべてを手放せる
セックス 財産
名声 自身も手放せる
 
お前は1匹の蝶になる
自ら発光する蝶になる
その存在は、完全な光

うわあ…うわあ…うわあ… !!!!!

「いつか無くなる」ってことは、実はとっても自由なんだよ。
っていうことが描かれているの。

考えてみたら、そうだよね。
100年後なんて、あなたもわたしも誰ひとり生きてないよ。
老いに向かって、全部「無」になるから。
だからね

好きなことを、しなさい。
好きなように、生きなさい。

って、強く伝えてくれているの。


もし一度でも深い痛みを感じたのなら
それを手放して
新たに感じなさい
今を生きなさい

で、この「すべて手放せるもの」のひとつとして。
父親との確執も、描かれるのね。


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子どもの頃、抱っこをしてくれなかったこと。
優しい言葉をかけてくれなかったこと。
自分の夢について、理解や応援をまったくしてくれなかったこと。

そのことをアレハンドロは、ずーっと忘れられなくて。
父親:ハイネのことを許せないでいるのね。

僕の中にいた存在は消えた
夢から炎を投げながら

母は母で、アレハンドロのことを愛してはいるんだけど。
ハイネは、自分の妻に対しても支配したがりなので。
そこまで強くは出られないんだよね。

母はいついもコルセットに身を隠した
高慢なアヒルに囲まれた白鳥だった

うちも、親とややうまくいっていないところがあるのでね。
あのラストシーンはわたし、ぼろっぼろに泣きました。


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自分が大人になるとさ。
親だって、一人の人間だってことがよくわかるようになるよね。

親なんて、全然パーフェクトじゃない。

欠点だらけの、一人の人間だもんね。
わたしだったらこうするのに…
なんてこと、いっぱい出てくるでしょう。

そんな気持ちを抱えたままでね。

親に感謝しよう。

育ててくれたんだから、感謝しなくちゃ。
って思うよ。
わかってるよ、わかってる。
でも、素直に「ありがとう」って言えないの。

単なるテレだけではないんだよ、これ。
もっとめんどくさい、割り切れないもやもやしたものもあって。
「感謝してるよ」って出せないの。

親を認めよう。親を許そう。

そんな上からじゃなくて、もっとこう…なんかないの?
そう思い続けていたわたしに、あのラストシーンは衝撃でした。

知らなかった
よかれと思ってやってたのに
せめて握手してから行け

感謝って、そういう方向でしてもいいんだ!
許すとか認めるとか、本来愛から生まれるものなんだ!

もうねえ、もうねえ…目からウロコがなくなるかと思いました…。
あれは、88歳の監督だから言えることなのかも。


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それからね。
なんせこれは、詩人の話なのでね。

とにかくもう、台詞がうつくしいの。

たとえばね。
詩人同士の恋などは、こんな感じで始まります。

「あなたにとって詩とは?」
「ホタルを飲み込んだ蛙が出す糞だ」
「あなたの口には私は大きすぎるホタルよ」

彼女がまた、個性的な人でね。
二度と忘れられない見た目だわ、腕っぷしは強いわ...
最初の登場シーンからもう、強烈なの。

2ℓのビールを一気飲みして、ゲップでセイハロー!

イルだわ...最高!

そんな変わり者同士なんだけどね。
ふたりとも、誰よりも、詩を愛していて。
誰よりも、芸術を愛しているので。
ふたりの間で決めるルールなんかも、ユニークなの。

あなたの背中を引っ掻きながら書くわ
挿入以外は何でもしましょう
私の処女は神の額を持ち山からやってくる男の為に取ってあるの
代わりに唾液を飲ませてあげる

一緒に歩くときは
必ずあなたの一物を握っておく

この高さがまた、ちょうどいいんだ…。


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あるいは、べつのカップルではこんな口説き文句もあったなー

花が見つからなかったから奢りたかった
楽にして、大丈夫だ
君からもらえるものがこれだけでも
もしそうなら一生の宝にする

もう一生分苦しんだ
僕も小さい
一緒に成長しよう

これは、小人症の男性の愛の告白です。
だから「僕も小さい」というのは、比喩でもなんでもなくて。

「君からもらえるものがこれだけでも」というのもね。
つい、帽子で受けてしまった彼女の吐瀉物を指しているんだけど。

はあ…うつくしい言葉…おいしい…


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それからね。
アレハンドロの親友もまた、詩人なのね。

「エン、詩とは行為だ」
「千回でも同意する
 詩とは行為だ」

で、この二人で創作活動が、実にユニークなの。

一見、すごいむちゃくちゃに見えるんだけど。
よく前衛芸術家にありがちな、意味のないむちゃくちゃじゃないんだよね。

ちゃんと、意味がある。
または
行為の中で、意味を見つける。

二人がむちゃくちゃしている間、コンサバな人たちやお年寄りなんかはね。
力いっぱい抗議したり、眉を潜めたりするんだよ?

でも、彼らはそんなこと気にしない。
彼らは自分の芸術を高めるために、行動するの。

だから、彼らの詩作活動を見ると、胸がすっとしてね。
快哉を叫びたくなるの。

もっとやれ


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とまあ、こんなふうに。
去年観た中では3本指に入るぐらい、よかったです。

わたしは数字が与えるインパクトを考えると。
数字や★をどうしても是とできないので、順位や点数はつけないけど。
今年観た中では3本指に入るぐらい、よかったです。

どれぐらいよかったか?というと…
ひさしぶりに、親に電話してしまったぐらい。

伝わると、うれしいね。

そうだね。
どうせ、「無」になるんだものね...

あきらめちゃ、いけないね。