うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『ロケットマン』に関する記憶 - 「彼の歌はなぜ、長く愛され続けるのか?」について突き詰めたら、愛についてディープに考えることになったお話

またまた、おひさしぶり!
ぴのこです。
今回のお話は、寝かせすぎて、公開終わってるところも多いんだけど。
観た人の答え合わせになれたりしたら、これ幸い。

そんな訳で、今回は『ロケットマン』です。

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『ロケットマン』本予告

尚、この作品は以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①音楽は大好きだけど、エルトン・ジョンは、実はあまりちゃんと聴いたことがない→Yes
②激しく愛を求めたことがある。そして、今も求めている→Yes
③「うるせえハゲ」と言われると、ドキッとしてしまう→Yes

詳しくは...


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この作品は、エルトン・ジョンの半生を描いた伝記映画です。
お話の中に出てくるのは、1950〜90年代ぐらいまでの間と思われる。

まず、エルトン・ジョンのイメージってさ。
どんな感じ?

イギリスのポップスター?
うんうん。
衣装がド派手?
うんうん。
ゲイ?
... ...うんうん。

今まではね。
比較的、イロモノ扱い的な感じが多かったと思うんだ彼。
今回は、ちがうよ?

まじめに、語ります。
フィルターとか色眼鏡とか。
いろいろ外して。
真正面から、見つめます。


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たださ、これどうしてもね... ...
ボヘミアン・ラプソディ』と比較されることが多いと思うんだ。

「イギリスのポップスター」
「衣装がド派手」
「ゲイ」
ここまで全部、かぶるもの。
ざっくりくくると、同じ引き出しに入っちゃう。

その上、どちらも。
スターダムまで一気に駆け上がった天才が、
富と名声を得たあと、
裏切りやら仲間割れやら、いろいろあって。
浪費と酒とドラッグとセックスに溺れた結果、
地獄の底から奇跡の復活を遂げる。

っていうお話だもの。

でもまあ、しょうがないと思うんだ。
ロッカー、ジャズメン、俳優、アーティスト... ...
大概のスターの伝記なんて。

物語にしたらほぼ、こうなっちゃうじゃん。

ビートルズだって、そう。
マイルス・デイビスだって、そう。
ウォーホルだってバスキアだって... ...ねえ?


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そんな中、このお話にはね。
「映画にしたら、ほぼこうなっちゃう」スーパースターの物語と。
大きくちがうところが一つだけ、あってね。
それは... ...

当の本人が、まだバリバリご存命。

ということ。

しかも、エンドロールによると。
この映画のエグゼクティブ・プロデューサーとして。
製作陣に名を連ねても、いるんだよね。

まだご存命で。
制作に関わってるってことはさ... ...

「このシーンは、こんな雰囲気/感情だった」
って、直接本人から聞くことができるってことだよね。

または、本人からしてみたら。
自分の目の黒いうちに、やいやい口出せるってことだよね。

本人が意図しないところでは、美化されない。
必要以上に、伝説にされない。

これはわずかに見えて、大きな大きな違いだと思うの。


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観終わってみて、まず思ったのはね... ...

曲が、素晴らしい。

今さら、それかーい!?
って、まってまって

例えばさ。
『君の歌は僕の歌』なんてさ。
みんな、どこかで耳にしたことはあるじゃん。


僕の歌は君の歌(ユア・ソング) エルトン・ジョン Your Song - Elton John

わたしも、そう。
どこかで、耳にしたことはあって。
それは... ...

夕飯を食べながら観た『懐かしのなんちゃら〜』な歌番組だったかもしれない。
あるいは、父親のカーラジオだったかもしれない。

もっと言うと。
クソダサいアレンジが施された、スーパーのBGMだったかも。

どこかで耳にしたことは、あったんだ。
あったんだけど。

名曲すぎて、いつでもどこにでも馴染むせいで。
逆に、ちゃんと聴いたことがなかったの。
きちんと曲と向かい合ったことがなかったの。

なんとなく、あれでしょ。
洋楽によくある、激甘なラヴソングでしょ。

そんな風に、雑に理解してたのね。

それをこの度、エルトン&バーニーの分業制も理解した上で。
詞もしっかり訳してもらって。
劇場のいい音響で、改めて聴き直すとね。

心の底にことん、と落ちてきた。
今さらながら。
初めて、ちゃんと。

ああ、うつくしい。

初めて、ちゃんと。
涙した。


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『君の歌は僕の歌』だけじゃなくてね。
まずはさておき、すべてにおいて。

曲が、素晴らしいの。
歌が、素晴らしいの。
音が、素晴らしいの。

一般家庭で流れる、アップライト。
天井の高い王立音楽院で流れる、グランドピアノ。
小箱ライヴハウスでの、ピアノ。
超満員の特大野外ステージで鳴らす、ピアノ。

全部、響き方がちがうの。

ボヘミアン・ラプソディ』の音も感動的だったけれども。
こちらだって、負けてない。

むちゃくちゃ金かけたシステムで、いい音を堪能するってさ。
ああもう、まったく。

なんて贅沢な快楽なの... ... !!!


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『君の歌は僕の歌』だけじゃなくてね。
一見、ド甘いラヴソングに聞こえるような曲でもね。

思い込みや裏の意味が、いっぱいあった。
意外と、内省的だったり。
驚くほど、暗かったり。

ロケットマン』だって。
実は、こんな歌だもんね。


【洋楽】エルトン・ジョン Elton John - Rocket Man【和訳 歌詞付き】

「こんな歌だもんね」
っていうか。
もうひと声、説明をつけ加えるとね。

実は、このロケットは壊れてしまって。
この宇宙飛行士は、もう。
地球に戻ることが、できないの。
で、宇宙のどこかでたった一人で、死ぬのを待ちながら。
愛する妻を想っているの。

「凧のように高く飛んでいる」も。
ロケットマンは孤独の中で ヒューズが燃え尽きるのさ」も。

比喩じゃないの。物理。

ね。
びっくりするほど、暗いでしょう。

だから、ラヴソングはラヴソングなんだけど。
ド甘いそれというよりは。

びっくりするほど、暗くて深いところで。
愛について、歌っているの。

「彼の歌はなぜ、長く愛され続けるのでしょう?」
って、よく言われるけど。
それはさ... ...

愛は、万人が求めるものだからだよね。


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物語の中でもね。
『I want love』が歌われるシーンがあるんだけど。
冷血代表に見える父親にも、しっかりこの曲を歌わせてるのね。

わたしは、この演出が大好きです。

一見、心がないように見えても。
実はみんな、心の奥では、愛を求めているんだ。

男だって女だって、それ以外だって。
子どもだって、いい大人だって。
それを信じているか、わざわざ口にするかは、別にして。
実はみんな、心の奥では愛を求めているんだ。

どうしてそんなに冷たいの?っていう人はさ。
ある時期から、他人に心を開くことをあきらめた。
そんなきっかけが、絶対にあったのだと思うの。
処世術として"不感症"にならないと、やりきれなかった経験が必ずあったのだと思うの。

たぶん、あの父親だってね。
どこかで、なにかに、傷ついたんだろう。
深く深く、傷つきすぎたゆえ。
ああなってしまったんだろう。
生まれつき、冷酷だった訳じゃない。

愛したい。愛されたい。
だけどなにかが邪魔して、うまくできない。

ほとんどの人が、そうだから。
その権化みたいな、エルトンの歌が刺さるんだと思うの。


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好きなシーンは、たくさんあるんだけどね。
わたし、この作品はオープニングがいちばん好きです。

この構成も、『ボヘミアン・ラプソディ』に似ていると思う。
でも、ドアをばばーん!と開けて向かった先は... ...

フレディの場合は、ライヴエイドの会場だったよね。
今回は?
エルトンはどこに向かうの?

たしかにね。
ボヘミアン・ラプソディ』のラストは盛り上がると思う。
映えると思う。
ドラマ性も高いと思う。
でもね... ...

なにを以て「奇跡の復活」とするか。

という問いに対する、この作品なりの解答が素晴らしいんだよ。
わたしは大好き。

一度ドロップアウトした存在に対する、愛も感じられて。
変にカタルシスを促すでもなく。
優しくて、あたたかい... ...

あのオープニングとエンディングが、わたしは大好き。


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エルトン役のタロンのそっくりさんっぷりも、素晴らしいです。
演技も、歌もそうなんだけど。
たとえば、他にも... ...

ロックンロールにすっかりヤラれた、若かりし彼がね。
リーゼントにしようとするものの。
「今のうちよ」って母親に笑われるシーンがあるの。
彼の家系は薄毛になるから。
髪型でおしゃれするなら、「今のうちよ」って。

その予言通り。
彼の髪は、しっかり薄くなるの。
しかも外国のイケオジにあるような。
かっこいいハゲでは、まったくないの。
全然、まったく。

普通に、薄くなる。
全然、美化してない。

でもなーんか、かわいいんだよなあ。

嫉妬深くて、癇癪持ちで。
ずんぐりむっくりの、小太りで。

でもなーんか、かわいいんだよなあ。

人が愛を求める姿は、たしかにね。
淋しくて、滑稽かもしれない。

いい年して... ...って、いやいや。
その容姿で... ... って、いやいやいや。

みんなちゃんと、かわいいよ。
愛おしいよ。

愛を求める人のこと。
わたしはそう、思うよ。