どうも、あなたのぴのこです。
そんな訳で、今回はこのお話。
尚、この作品は以下のあなたにオススメと考えられます。
①ここだけの話、「陰キャの東大卒」にざっくりとしたイメージがある→Yes
②答えが出ないものを流すことができる→Yes
③「しあわせとは何か?」と問われて即答はできないが、ぼんやりしたものはある→Yes
詳しくは... ...
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とても不思議な映画ですこれ。
東大卒の和彦が近所の銭湯でバイトを始めるんだけど。
その銭湯には実は「殺しのための場所貸し」という夜の顔があって... ...
というのが、ざっくりとしたあらすじなんだけどね。
すごく、変な映画ですこれ。
現実に、もしこんなことがあるのだとしたら。
整合性が取れてないところもあるかもしれない。
でもね... ...
「そういうことも、あるかもしれない」
「彼らが無事なら、まあいっか」
で、丸く収まっちゃうの。
終わってみるとね。
ん?そういえば、あそこのアレはどのように解決したのだ???
などという点も、あるにはあるのだけれども。
主人公の和彦、同僚の松本。
彼女の百合、アンジェラ。
鍋岡家のみなさん... ...
いかんせん、登場人物がチャーミングすぎてね... ...
「絶対不幸になるなよ?なるなよ?なるなよーーー !」(※言葉通り
って、祈るような気持ちで観てしまう。
細かい流れは、どうであれ。
ここまでハッピーエンドを願いながら、手汗びちょびちょになるような作品。
ひさしぶりかも。
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まず、和彦の"東大卒っぽさ"が、凄まじいんだよね。
ああいう、ぬぼーっと無駄にでかくて、手足を持て余している感じ。
どこで買ったんだよ?ってデザインの眼鏡が、常に汚れて曲がってる感じ。
落ち着いて考えれば切れ者なのに、アドリブに弱そうな感じ。
女の子と話すときに、目が合わない感じ。
そのわりに、せっかちなアンサーのタイミング。
その上での、あの告白のタイミング... ...
いや。断っておくと。
和彦役の皆川さんはね。
むちゃくちゃイケメンなんだよ?
でも、再現率がまじやばい。
すっごく、いそうだもん。
こういう、陰キャの東大卒。
東大と聞いたら。
「あ。ですよね... ...」ってなるような。
そういう説得力がまず、すごいの。
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それと実は、和彦ってね。
お育ちが良いのです。
「育ちがいい」っていうのは、裕福とかお坊ちゃんとか。
そういう意味ではなくて。
おそらく、本人無意識なんだけどね。
深い深い愛情に包まれているの。
「家族の愛情に包まれているのが、当たり前の状態である」
という
ん?まってまって
よくよく考えてみれば、これってさ。
今どき、めずらしくない?
だってさー
実家でごはん食べてるシーンが、何度か出てくるんだけど。
毎回毎回、お父さんがお母さんのごはんを褒めるんだよ?
「母さんのごはんはおいしいな」
って、お父さんが毎回言って。
それを受けるお母さんが毎回、テレんの。
で、一人息子の和彦としては。
それに同意するでも、否定するでもなく。
当たり前のものとして、毎回ナチュラルに流してるの。
なんだよそれ。
家庭円満の秘訣かよ。
ごちそうさま。
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一方、銭湯での同僚:松本ね。
観終わったあと、観客の女子大生風の二人連れさんがね。
「最後まで『松本、頼むーーー !!!』ってなったー」
って言ってたのを、耳にしたけど。
わ か る ! そ れ な ! ! !
彼は、和彦とは真逆で「おべんきょができる」人物ではなくて。
かなりシビアな環境で育ってきた上での。
現場で培ってきた頭の良さがあるタイプだと思うのね。
その辺の詳細は、ちょろっとしか語られないけれども。
見れば、わかる。
彼の足腰に、全部出てる。
言葉遣いに、上下関係が叩き込まれた跡がある。
この作品の見どころはね。
一つが、和彦の東大卒の完全再現っぷりだとしたら... ...
わたし、松本は下半身の安定感だと思うの。
彼の脇の締め方と腰の落とし具合、ね。
まじタダモノじゃねー
だから、スリリングな展開になるときも。
和彦に対して、こいつ大丈夫かよ?ってなるし。
そりゃあ、和彦の腹の決まりっぷりも確認したくもなるでしょうよ。
事の重大さ、伝わってる?ってイライラもするよね。
見た目も、体格も。
学歴も、家庭環境も。
できることも、得意なことも、異性関係も。
すべて凸凹で、正反対なのに。
いや。正反対"なのに"じゃなくて。
正反対"だから"かな。
お互い、最初はナメてるんだよね。
だけど自分にないものに嫉妬したり、イライラしたり、憧れたりしながら。
不思議なバディ関係に仕上がっていく。
その様が、おもしろいの。
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あと、この作品。
なんで?どうして?がものすごく、多いのですよね。
「どうして東大卒なのに、バイトなんかしてるの?」
「なんで銭湯に通うの?」
「何がたのしみで生きてるの?」
「どうして戻ったの?」
それから、そうだ。
「なぜこの人は殺されなくちゃいけないの?」
そして
「なぜ殺さないの?」
... ...
疑問形の台詞が多いのはね。
和彦が東大卒っていう設定のせいもあると思う。
尚、このクエスチョンたちのほとんどは、明解な答えを得られません。
でもね。
「そっかーそんなもんかー」
「特に意味なんてないよね、なるほど」
そんな優しいスルー感というか。
ほどよく流せるような、ふわっとした空気が終始漂っています。
この空気感というのは、お風呂屋さんとかお湯とか湯気とか。
そういうものに、存分に掛かっている気がするんだけど。
もっと言うと、和彦のね。
「頭でわかってること」が、ひょろ長い手足に行き届いてない感じも。
彼のあの身体的特徴によって、完全に具現化されている気がするんだけど。
一方、本人たちがやってることはだーいぶ、ショッキングなもんだから。
空気感と、無駄に長い手足と、実際やってることのコントラスト。
そこがまた、ものすごく濃いんです。
またもや、不思議な違和感。
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で、和彦の最後の台詞ですよ。
詳しくは、実際に観てください。
「 わ か る 」
しかない、あの台詞。
しあわせって何だろう?を語るとき。
この先のわたしは必ず、あの台詞を引用するはずだ。
作り手がこの作品の中で、いちばん言いたかったことはたぶん。
あの台詞に集約されているのだと思うのだけれども。
それが言いたいがために、この設定を思いつく。なんて
この設定から笑いが起こる。なんて
まさかこの設定で観客から絶大な共感を得られて、あまつさえ涙まで搾り取れる。なんて
なかなかの、番狂わせです。
すっごく、変な映画なんだよ。
でもね... ...
わたしはきっと、おバカさも含めて。
人間のかわいらしさとか、愛おしさに触れられるお話が好きなんだと思う。
あなたもきっと、松の湯が好きになる。
ひさしぶりに、銭湯に行きたくなる。
まだの人、ぜひ観てきてよ。
で、手汗びちょびちょのまま、ぴのことハイタッチしようよ。