うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『彼らが本気で編むときは、(2017)』に関する記憶

そんな訳で今回は、『彼らが本気で編むときは、』です。

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『めがね』、『かもめ食堂』でおなじみの、荻上監督最新作ですよー!
「、」いいよね、「、」。
ややもすれば藤岡弘、がチラつく辺り。


生田斗真がトランスジェンダーの女性に『彼らが本気で編むときは、』予告編

尚、この作品は、以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①すっごい疲れてるし、すっごい傷ついてる。優しくてやわこいもので包んでくれなきゃやだやだやだー!!!→Yes
②同性愛とか性同一障害とか、自分の身の周りにはない話だと思っている→Yes
生田斗真の本気が見たい→Yes

その心は...

(尚、劇中の台詞については耳コピであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)

シネマ食堂

シネマ食堂



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うーん...わたしの中での荻上監督のイメージってね。

・なんとなく、物語やモチーフが女子っぽい
  北欧でおにぎり、とかね。
  メルシー体操、とかね。

・なんとなく、画とか色とかが女子っぽい
  カメラ女子とかが好みそうな画だなーって

いや。全然disってんじゃないよ?これ
現に、『めがね』のDVD持ってるしわたし
荻上監督、大好きな監督のうちの一人です。

ともあれ今まではわたしの中では、そういうイメージで。
ふわっとした気持ちのまま、劇場に出かけたんですよね。

見事に、裏切られました。
いい意味で


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このお話ね。
トランスジェンダーを巡る話だと聞いて。
しかも、編み物を扱う物語だと聞いて。

リンコさんなる人物は、きっと。
かわいいもの好きの人として描かれるんだろなー
おかんアートみたいなの、いっぱい出てくるかなー
って、ぼんやり思ってました。

matome.naver.jp

びっくりした。

彼らの編んでるもの、ね。
ただただ、かわいいだけのふわふわしたものじゃなかったの。
*1
だーいぶ、芯のごりっとしたものだったの。

びっくりした。

見事に、裏切られました。
いい意味で

私はね
これですっげー悔しいこととか
死ぬほど悲しかったりすることを全部チャラにするの
ザケんじゃねー!って
チクショー!って

そうするとね
いつの間にか心が平らになる

そういうものって、みんなそれぞれあるでしょう。
むちゃくちゃ走るとか、むちゃくちゃ泳ぐとか。
土に触るとか、サボテンに話しかけるとか。
写経とか、読経とか。

わたしの場合は深夜の料理が、そう。

悲しすぎたり、怒りすぎたり、凹みすぎたりすると。
大抵は、寝逃げするんだけど。
今日だめだなー
そっちじゃないなー
ってこともあって、そういうとき。

夜中の1時すぎにおもむろに、料理することがある。
食べるためでは、ない。
決して、ない。

たとえば、大量の葱を刻んでると、妙に心が落ち着くの。
涙がボロボロ出てくるんだけど。
それもう、硫化アリルのせいか。
悲しいからなのかもう、だんだんぼやけてくるのね。

そこ通り過ぎるといつの間にか、心が平らになるの。

そういうものって、みんなそれぞれあるでしょう。
むちゃくちゃ走るとか、むちゃくちゃ泳ぐとか。
土に触るとか、サボテンに話しかけるとか。
写経とか、読経とか。


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それから、これね。
社会的に複雑な立場の人がわりと、出てきます。

たとえば...そうだなあ。
小学生の娘置いて、男と逃げた母親とか。
そんなん、100%母親が悪いだろ?
って思っちゃうでしょうそうでしょう。

でも、そういう人のことも。
ばっさり、斬ったりなんか、しない。
どうして、そうなってしまったのか。
背景や根っこの部分までも、丁寧に丁寧に描いてあるの。

ママは私のことも棄てちゃうのかな
 
うーん...トモのママは
自分にとっての優先順位がつけられない人なんだ
そういう人もいるんだよ
とても悲しいことだけど

優しい。
母親(というか姉)に対しても、そうだけど。
11歳に対して、ギリわかる言葉で。
真摯に説明しようとする姿勢も、優しい。

あるいは...そうだなあ。
LGBTの物語だと大抵、差別する存在が出てくるでしょう。
そんなときもね

ママに言われた
僕はとっても、罪深いんだ
 
あんたのママは、たまに間違う
だって、絶対に
絶対にぜーーーっっっったいに、そんなことない!!!

11歳にとっての保護者なんて、絶対的な存在でしょう。
つい、間違ってるのは自分の方って思っちゃうでしょう。

目先のごまかしとか、甘言とかじゃなくて。
「大人だって、間違うこと」って、力いっぱい伝えることも優しいし。
「そのままでいいんだからね!!!」
って、肩引っ掴んで言い続けてくれるような姿勢も、優しい。

間違えても、いいよ。
赦すよ。

だって、みんな間違うもの。
お互い様だもの。

私、なんか間違ったことしたかな?って
あ。間違ったのは私じゃなくて
神様は私の造形を間違っただけなんだけど

ね。
大人だって、間違う。
神様だって、間違う。


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あと、それからね、
いろんな形の愛も、出てくるんだ。

愛はあるんだけど。
どう表現したらよいか、こんがらがっちゃってる愛もあるの。
伝え忘れたまま、置いてけぼりになっちゃってる愛もあるの。
伝えられなくて、自分を苦しめている愛もあるの。

ねえ、トモちゃん
一つ、言っとくけど
リンコのことを傷つけるようなことをしたら私は赦さない
たとえあなたが子どもでも、私は容赦しない

これは、リンコさんの母親の台詞なんだけど。
この母の愛がまた、強え強え
世界中を敵に回しても...って、本気で思ってる。たぶん

失礼極まりないのは重々承知の上で
でもやっぱ、ラッキー!って感じ
だって私、自分の娘がいちばんかわいいんだもの

これなんかも、ね。
言ってることは、倫理的にあまり正しくないんだよ。
でもね。
リンコさんへの愛は、すっごく伝わる。
それだけは、伝わる。

さらにね。
リンコママは、リンコさんのことすっごく愛してるんだけど。
決して、子離れできてない訳じゃないんだよね。
依存とか、執着じゃないの。
全然、ねばっとしてないの。

ただの、愛なの。
ただただ、濃くて、広くて、深いだけなの。

ちゃっかり、ひと回り下の旦那もいたりして。
自分のしあわせもちゃんと、謳歌してる。
その距離からでも娘のこと、すっごく愛してるの。

愛の形も、カラフルです。
みんな、誰かには共感できるんじゃない?
みんな、誰かを思い出すんじゃない?

わたしはリンコママにめちゃ共感しました。

あなたは?
誰に?


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LGBT関連のことってまだまだ、ね。
ステレオタイプで一緒くたにされてたりするじゃないですか。
おネエ、ドラッグクイーン、男の娘、アニキ...
みんな違うし、個人でも違うんだけど。
まだまだ、ごっちゃにされてるじゃないですか。

リンコさんはね。
そんな、テンション高くないです。
きゃぴきゃぴもしていない。
仕草の一つ一つがきれいで、丁寧だけれども。
無駄に小指が立っちゃうとか、ない。
全然、ない。

すごく、穏やかで細やかで優しい人です。
たぶん、目立つこととかも求めていない人。
夜のお仕事とか、性を売りにしたような仕事でもないです。
お昼間普通に、働いてる。介護職として

つまり、まったく普通の人なの。
あなたの生活圏内にも必ずいるであろう、トランスジェンダー
それが、リンコさんなの。

そういう、普通のトランスジェンダーを描いたというのは、もちろん。
本のおかげでもあるし。
監督のおかげでも、演出のおかげでもあるんだけど。

生田斗真の仕事も、すごい。

これ観た人、ね。
「実は僕、家ではずーっとスカートなんです」
って言われても全然、驚かないと思う。

そっかそっか、やっぱりねーって言うと思う。

まったく、力みがないの。
もともとの男の顔が消えてる。
それぐらい、自然なの。

これ、すごい重要で。

もし、力が入っちゃったら。
地の生田斗真が出ちゃったら。
ちょっとでも、不自然だったら。

リンコさんが壊れるの。
作品が壊れるの。

ちょっと、見直しちゃいました。
よく演ったよなーこんなむずかしい役


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他にも、大好きなシーンはいっぱいあるんだけど。
そうだなー
そうだなー

リンコさんがトモを抱きしめるシーンの話してもいーい?
(いいよー)
トモがめっちゃ傷ついて帰ってきた日のことなんだけど

おっきな手で、優しく抱きしめながら。
相手が落ち着くように、ゆっくりとんとんしながら。
「おっぱい触っていいよ」
って言うの。

そんなん、トランスジェンダーにしかできない愛情表現でしょう。

本物より、ちょっと固めらしいよ
どう?

彼女のコンプレックスだった、おっきな手で。
ほんとはずっと本物がほしかったはずの、偽おっぱいで。
彼女は、言うの。
とんとんしながら。
抱きしめながら。

うん、本物よりやや固めかも
でも... ...ちょっと気持ちいい

ね。ほら。
ちゃんと、伝わってる

映画「彼らが本気で編むときは、」サウンドトラック

映画「彼らが本気で編むときは、」サウンドトラック

*1:「おかんアートがかわいい」とは言っていない