うちのシナプスだって、本気出せば手をつなげる。

ごはんとお酒以外も上手に思い出せるよ!ということを証明する実験。尚、嫌いな作品をdisるほどのカロリーは残ってません。

『ムーンライト(2016)』に関する記憶

そんな訳で今回は、『ムーンライト』です。


アカデミー賞候補作!『ムーンライト』本国予告編

尚、個人的に、この作品は以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。

①青はあまり好きじゃない→Yes
②おしゃべりな人はあまり好きじゃない→Yes
③尊敬できる人と訊かれて「両親」と答えたことがない→Yes

その心は...

(※劇中の台詞については、いささか心許ない記憶に頼ったものであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)


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まず、いきなり言っちゃうけど。
わたしね。

この映画を好きって言う人のこと、好きだわ。

今までどんな人が好き?って訊かれて。
かわいい人、とか。
いい顔でごはん食べる人、とか。
いい顔でお酒を呑む人、とか。
言葉を大事にする人、とか。
いろいろ言ってきたんだけど。

わたし、この映画を好きって言う人のこと、好きだわ。
たぶん。
のん、間違いなく。

この作品には、主人公シャロンの淋しさがずーっと流れてるのね。
シャロンの淋しさと、悲しみと。
海の色と、潮風と。
忘れられない夜と、彼らの肌色と。

そういうものを集めたら、こんなブルーになりました。
っていうような作品だと思うのこれ。

わたしにとって、いちばん好きな作品!という訳ではないんだけれど。
たとえば、嵐の前の心がざわざわする夜。
たとえば、気持ちが荒ぶって眠れない夜。
たとえば、季節の変わり目で悲しい記憶が戻ってきてしまったとき。
たとえば、しくじって自分に誇りを持てなくなってしまったとき。
たとえば、なんだか人恋しいとき…

そんなときに、手に取る作品になりそう。
お守りに、なりそう。


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これね、劇場を出る時に。
「結局、何だったんだろねー」
って感想を耳にしました。*1
うん、うん...
まあ、わからなくもないんだけど。

待って待って。ちょっと待って。
ばっさり斬る前に、ちょっと待って。

食事のときだけ 口が動くな
 
大丈夫よ 気が向いたらしゃべって

シャロンが寡黙な少年、というせいもあるんだけど。
極端に、台詞が少ない作品です。
とても静か。一見、穏やか。

でも、日常で、心の中で。
起きていることは、全然穏やかなんかじゃないのね。
たとえば…

シャロンは子どものころからしょっちゅういじめられていて。
いじめられるシーンがけっこう、序盤から出てくるのね。
かなり、激しいレベルのやつ。

いじめの表現はけっこう出てくるのに。
なぜそんなにいじめられてるのか?っていう理由についてはね

あの子の歩き方を見た?
いじめの理由をあの子に言える?

オカマって何?
 
オカマっていうのはゲイを不愉快にさせる言葉だ
 
僕はオカマ?
 
もしゲイでもオカマと呼ばせるな
 
自分でわかる?
 
ああ たぶん
 
そのうちね

今すぐわからなくていい まだ早い

女みてえなジーンズ穿きやがって

いちばんはっきりした表現で、この辺りぐらい。

これだけの情報で、
性とは何か、自分にとっての性対象とは?と自覚する前に
「あいつオカマじゃね?」っていじめられている。

という、シャロンの存在を読み取ることを求められるのね。

あるいは、ね。
シャロンの心の拠りどころとなっている、フアンについてもね。

彼と彼の恋人テレサが、どんなに素敵な人か。
シャロンにとって、どれだけ、存在が大きかったか。
人生について、生き方について、どれだけ影響を受けたか。

そういうことについては、じっくり描かれているの。
いろんな台詞で。
いろんなエピソードで。

でもね。
フアンの死については、ね。
それほどまでに大きな出来事であるにも関わらず。
直接的には、何も出てこない。描かれない。
彼のお葬式のことについて、2、3のことが出てくるぐらい。
驚くぐらい、あっさりしている。

極端なんです。
でもね。考えてみて。

自分が激しく、長らく、いじめられていたとして。
その理由を、詳細に渡って話したいと思う?

否。
忘れたい。できるだけ早く、忘れたいわ。

自分が心の拠りどころにしていた存在について。
彼の死の詳細をついて、思い出したい?

否。
麻薬ディーラーだもの。
おそらく、その手のゴタゴタに巻き込まれたんでしょう。
忘れたい。彼の素敵なところしか、憶えていたくないわ。

わたしはこの、淋しさに距離を置いてくれるところが好き。
悲しみに、土足でずかずか踏み込んでこないところが大好き。

そっとしておいて。
だって。
わたしの淋しさは、わたしだけのものだから。
わたしの悲しみは、わたしだけのものだから。


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台詞が少ない分、語りすぎない分。
ちゃんと、他のところで補ってあります。
ちゃんと、見てね。気づいてね。

たとえば、カメラワーク。
いじめっ子たちから逃げているときの、ぶれっぶれな視界。
必死なんだよ、あそこ。
逃げなきゃ!一刻も早く、逃げなきゃ!

たとえば、フアンとの出会いのシーン。
逆光から、徐々にピントが合ってくるでしょう。
この人は敵なの?味方なの?
って迷いがあるんだよ、あそこ。

たとえば、初めて泳ぎを教えてもらうシーン。

頭を俺の手に預けろ
ちゃんと支えてる
離さない安心しろ
10秒だ
感じるか
地球の真ん中にいる

ここ、すごく音楽がいいんだよ。
だからシャロンにとって、大きな体験だったと気づくことができるんだよ。

知らないくせに

たとえば、この台詞。
2回、出てきます。
1回目は、カウンセラー(?)に向けて。
2回目は、親友に向けて。

でも、その後の反応が違う。体温が違う。
全っ然、違う。
ちゃんと、見てね。気づいてね。

たとえば、大人になってからのシャロンのバンダナ。
車のナンバープレートは、「BLACK」だよ。
あのバンダナ、誰かとそっくりじゃない?誰だっけ???
「BLACK」って何だっけ?誰から受け取った言葉だったっけ???

ちゃんと、見てね。気づいてね。
台詞以外のところでちゃんと、補ってあるから。


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そんな情報量の作品なので。
ラブシーンらしきものも、ほんの少ししか登場しません。

お前は何に泣くんだ
 
泣きすぎて自分が水滴になりそうだ
 
海に飛び込みたいか
この辺のやつらは海で悲しみを紛らわす

少しの沈黙の後。
なんとも言えない空気が生まれて、それからそれから...
っていうこの、ね。

君に触れたいよ。キスしたいよ。
もっともっと、近づきたいよ。
近づいてもいい?大丈夫?
こんな自分だけど、受け止めてくれる?大丈夫?

っていう、この躊躇も含めたこの空気がね。
知ってるでしょう。
あなたも、誰かに感じたことがあるでしょう。

人種も性対象も、何ら変わりないんだなー
って感じたのが、第一印象だったのねわたし。

わたし、自分ではLGBTには偏見がないつもりでいて。
本人がしあわせならばいいじゃん。応援したいよ。

ってスタンスなつもりなんだけど。
ヘテロと一緒なんだな。って感じた時点で、すごくはっ!として。
これって実は差別的なんじゃないか?ってちょっと反省した
んだけど。

でも、一つ言わせて。
些細なことかもしれないけれども。

友達的なじゃれ合いの後、こういう流れになるのって。
ちょっと、うらやましい。
否。すごく、うらやましい。

ヘテロは二人きりになった時点で、かなり構えるもん。
うらやましい。すごく、うらやましい。


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一方、シャロンの母親はね。
まあ、クズです。

このブログはね。
とっくに、バレてるかもしれないけれど。
実は、映画の感想を隠れ蓑にした「自分語りしたいしたい」ブログで。

もっと言うと、本音を言うと。
ここで語りたいことって、ほんとはね。
愛について。
それから。
人生とは、歳を取ることは、都度自分で意思決定していればなかなか悪くないよ。ということについて。
ほとんどこの2点に集約されるのだけれども。

鼻で嗤われても、全然いいよ。
そのかわり。
いろんな愛について、語りたいよわたしは。
いろんな人生も、肯定していきたいよわたしは。

子ども時代のシャロンについても、ね。
彼に逃げ場があって本当によかった!って思うけれど。

母親もね。
シングルマザーだし、お金がある訳じゃないし。
でも、息子のこと愛してるけど、どうしていいのかわからないし。

お金をせびったりもしますよ。
男連れ込むときに出てけとか言いますよ。
最悪だわ。母親失格だわ。
メンタルも不安定だし、クズですよ。ええ

でも、そのことをずっと悔いていて。
どう伝えたらいいのかってずっと考えていて、考え続けていて。
何度か、伝えかけてるよね。
伝え切れてないけれども。

それでの、その上での、これ。

あんたが俺に説教するのか
 
聞きなさい
バカだって ひどい母親だったよ
だから私みたいなクズにならないで
愛が必要なとき与えなかった
私のことはいいよ
私はあなたを愛してる

今さらだよ!
今さら何だよ!!!
お前今まで俺にどんな思いさせてきたか、わかってんのか!?

って話だよ。まったく、もう

でも、あえて伝えるよ。
伝えずにはいられないよ。

だって、わたしが、どうであっても。
あなたが、どうであっても。
わたしが、あなたにとって、どうで思われていても。
何がどうあっても、愛してるんだもの。

そのとき、シャロンが流す涙が一筋だけ。ってところもうつくしいし。
やっぱりね...うん...うん、そうだ。
わたしは言いたいことは、こうかな。うん

どこからでも、やり直せるものであってほしい。
そして。
どこからでも、愛は伝えられるものであってほしい。


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わたしはわりと、私服がカラフルな人間でね。
あっごめん。また急に自分語りが始まっちゃったね。ごめんね。

でも、わたしね。
つまり、爽やかさからはもっともほど遠い人間なのね。

わーお
こんな名言、誰が言ったの?
誰かというと、出自はなんと!わたしです。わーお

みんな、どっか、イタいでしょう。
どっか、キモいでしょう。
誰もがみんな、めんどくさいでしょう。
わたしも、そう。
みんな、そう。

でもね。
そこを、どれだけ愛せるかじゃないの。
そこを、どれだけ受け入れられるかじゃないの。

わたしにとっては、ね。
ブルーは、それほど好きな色じゃなかった。今までは
どちらかというと、赤とか黄色とか緑とかオレンジとか。
見ていて元気が出るような、気分が上がるような。
そういう色の方が好きで。

ブルーかー…うーん…
まあ、たまにはいいけどねー
ぐらいの感じだったんだけどね。

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でもね。
すべて観終わった後に、このポスターを見るとね。
また一段と、こみ上げてくるものがあるんだよ。

深い孤独を知っている人。
深い悲しみを知っている人。
ずっと愛してほしかった人。

そういう人にきっと、響くと思うのこの作品。
感じるものがあると思うのこの作品。

たとえば、嵐の前の心がざわざわする夜。
たとえば、気持ちが荒ぶって眠れない夜。
たとえば、季節の変わり目で悲しい記憶が戻ってきてしまったとき。
たとえば、しくじって自分に誇りを持てなくなってしまったとき。
たとえば、なんだか人恋しいとき…

そんなときに、そんな人に。
わたしはうまいここと一つ、言えないから。

何も言わずに。
そっと差し出したいと思うの。この作品。

愛してるよ。
大丈夫。どこからでも、しあわせになれるよ。

って言葉のかわりに。
イタくても、ね。
キモくても、ね。

森永製菓 ムーンライト14枚入

森永製菓 ムーンライト14枚入

ムーンライト

ムーンライト

*1:なんせ、映画を観るときは大体一人なもんで。終演後に他の観客の感想を拾ってしまうことが多いのね。個人をdisってる訳じゃないのね。ごめんね