どうも、あなたのぴのこです。
今回は、このお話。
尚、この作品は、以下の気分のあなたにおすすめと考えられます。
①震災関連のニュースはけっこう見ている方だ→Yes
②行間を読むのが得意である→Yes
③味のある役者を観るのが好きだ→Yes
その心は…
(※劇中の台詞については耳コピであるため、正確ではない可能性が含まれます。ご了承ください)
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この映画はね、極端に台詞が少ないです。
特に前半なんてね。
なかなか、喋らない。
主人公のみゆきなんか、首から上の横顔のシーンがすごく多いの。
家事をしているとき、夜行バスに乗っているとき、運転しているとき…
台詞やモノローグに頼らず。
表情だけで語らせるところがすごく多いの。
いろんな想いを含んだ、複雑な表情。
その分、生活音が多いのね。全体的に。
おふとんがカサカサいう音、お米を研ぐ音、
髪を切る音、お箸が茶碗に触れる音、
パチンコ屋の喧騒、渋谷の雑踏、バスの排気音、キスの音…
マイクがかなり、近い。
けっこうがっつり、拾ってる。
だけどね。
それを全部消して。
メインテーマの音楽だけを当ててる*1シーンが何箇所かあるんだよね。
ひとつは、オープニング。
それから、父親の修が軽トラで立入禁止区域に入るシーン。
それから、修が船に乗せてもらって海に向かうシーン
あるいは、飛び降り事故の話を聞いた後で、みゆきが窓から地上を見下ろすシーン…
まだ他にもいくつかあるんだけど、どこも重要なシーンばかり。
どれも、胸に迫るんだよね。
日常とは強くコントラストをつけていて。
そっか、こういう表現もあるんだ。って思った。
たとえば、みゆきがいわきから東京に向かうシーン。
まっすぐな道路を走っていくバスを、俯瞰で撮ってるんだけど。
そんな音響で観ていると、バスが滑るように移動して見えてくるの。
道がどこまでも、スーッと伸びていくようなの。
音の演出の力って、すごい。
改めて、すごい。
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さて、震災から6年が経ちました。
わたしもなるべく、見るようにして、触れるようにして。
「忘れちゃいけない」と意識してきたつもりではあったんだけど。
そっか、実際にああいうことが起こると。
こういう人も現れるのか。
こういう問題まで起こるのか。
ということが、わらわら出てくるの。
ものすごく、生々しく、たくさん。
ものすごく、たくさん。
たとえば、補償金で毎日パチンコをする元農家とか元漁師とか。
宗教にハマるおばあちゃんとか、お母さんとか。
そのかわり…ちょっと買ってほしいものがあるんですよね、壺
お守りみたいなもんです
置いとくだけで、その辺りの線量がぐーっと下がるんです
仮設住宅までやってくる、怪しげなセールスとか。
激しい迫害に病んでいく、原発作業員の夫婦とか。
たぶん、現地で暮らしてたらね。
この手の話って、「よくあること」なんだと思う。
自分の近しい人でも、こういうことってあるのかもしれないし。
噂話レベルだったらそれこそ、毎日耳にするぐらいのことなんだと思う。
でもね、こういう話ってさ。
いくらNHKを観てても、絶対にやらないでしょう。
学校でも教えてくれない。
6年経った、福島の「日常」って。
わたしたちから見たら、全然知らないようなことばかりみたい。
わかった気になっていて、ごめんなさい。
原発で働き始めた頃は「町が潤う」って感謝されました
一生懸命 働いたんです
私 なんか悪いことでもしたんでしょうか
どうして こんな肩身の狭い思いをしなきゃならないんでしょうか
誰がいいとか、悪いとかいうんじゃない。
何がいいとか、悪いとかいうんじゃない。
きれいごとじゃなくて、美談じゃなくて。
『がんばれ!ふくしま』ではまとめきれない、リアルな生々しさ。
そっか。
生きていくってこういうことなんだ。
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そうそう、『がんばれ!ふくしま』といえば。
役所の広報担当の人間が出てくるんだけどね。
勇人といいます。
彼が、いいの。
おそろしく、いいの。
良い人間であろうとして。
みんなの役に立とうとして。
すごく、がんばる男なんだよ彼は。
「みんな」っていうのはね。
地域住民のことでもあるし。
外からやってきた人に対しても、そう。
肉親である弟に対しても、そう。
すごく、がんばってるんだけど。
状況が状況だからね…
なかなか思い通りにいかないこととか、遅々として進まないこととか。
山ほどあるの。
それゆえ、住民からもね。
理不尽とも言えるような、いろんな感情をぶつけられるんだ。
骨はどうなる?
ここに移してくれんのか?
それは無理なんです
汚染されているので
骨もないのに何が墓だ!
この役立たずめ!
相手の気持ちは、わかる。とてよく、わかる。
わかるけど。
現状、彼一人の力ではどうにもできなくて。
解決の目途を伝えることもできないし、代替案も用意できない。
彼も彼なりに、つらいんだ。
あるいは、外の人からの興味の対象となることも。
東京の女子大生から、卒論のテーマということで。
震災当時のことを、勇人がインタビューされるところがあるんだけどね。
あそこも、なかなかキツいシーンだった…。
彼女のもともとの性格からなのか、若さからなのか。
はたまた、外の人間特有の温度差なのか。
もしかしたら、全部なのかもしれないんだけど。
彼女の配慮のなさ、デリカシーのなさに胃が痛くなるほどなの。
土足で入ってくんなよ!
「あーはいはいはいはい」って流すなよ!!!
って、怒りが湧いてくるほどなの。
津波を間近で見た訳ですよね?
どういう気持ちでした?
ついに勇人は、この質問の後にね。
ひとことも答えられなくなっちゃうんだ。
『がんばれ!ふくしま』
がんばってるよ
だけど、この勇人もね。
同郷のカメラマン:沙緒里にだったら。
津波で家がどうなったのか。
家族は今、どうなっているのか…
かなりのデリケートゾーンまで、自分から語ることができるんだよね。
それは、沙緒里から、子どもの頃の思い出を語ってくれたせいかもしれない。
受け止めてもらえる度量を、沙緒里に感じたのかもしれない。
はたまた、ひさしぶりの海で、気持ちに余裕が生まれたせいかもしれない。
なつかしい海だもんね。
今となっては立入禁止の、なつかしい海だもんね。
役所の広報という、比較的公平な立ち位置からであってもね。
あれを経験した/経験していないっていうのは、大きな壁になるんだなーって。
それでね、それでね。
この勇人役を演じているのが、柄本時生なんだけど。
彼の顔は、なんというか…
一見、なにを考えているかわからないようなところがあるじゃない。
怒っているのか、泣きたいのか。
悔しいのか、なにも感じていないのか。
パッと見わからないところが、また。
勇人そのものに見える。
ハッとする。
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さて一方、東京サイドに話を移すね。
みゆきがデリヘルやるのに、どうして東京に出てくるのか。
わたしもたっぷり、考えたよ。
みゆきが住んでいるいわきだって、そこそこ大きな都市だよね。
知り合いに会うのはちょっと…っていうんだったら。
県内の少し遠いところとか。
あるいは、近隣県とか。
他にもいくらでも選択肢があると思うの。
どうして、わざわざ東京なのか。
毎週末、夜行バスに乗って通うのって、なかなか大変だと思うんだよね。
時間も、お金も。
東京への憧れは…みゆきの場合、それほど感じられないかな。
いわきでの生活は、見ているこっちにも閉塞感が伝わってくる。
だから、たとえひとときでも解放されたいって想いからなのかも。
渋谷の雑踏の中でのみゆきは、なんだか少し楽になったように見える。
でも、他にもまだあった。大きな理由が。
物語もだいぶ進んでくると、わかるんだけどね…
ああ、そうか。
三浦への信頼感か。
「守ってやる」なんて 簡単に言わないでください
どうして私のことなんか守ってくれるんですか
仕事だから
かなりテンパってるみたいだから きっと事情があるんだろ
けど、どうだっていいよ 俺には関係ない
俺の仕事は 怖い目に遭わないようにあんたたちを守ること
あんただけを守るんじゃないよ
うぬぼれんな
当時のみゆきにとって、これはほんとにありがたかったんだろう。
優しくされるより、同情されるより、安易に約束されるより。
「関心を持たれない」ということが何よりも。
助かったんだろう。救われたんだろう。
俺この仕事好きなんだよね
人間のいろんなところ見られるし
いいところも 悪いところも
生きてる感じがする
東京は人が多すぎて。
個への興味が薄まるところもあるでしょう。
お客もまた、そうなんだ。
田舎のデリヘルはババアばっかりだけど
やっぱ渋谷はちがうね
いわきから通ってるみゆきにこんなこと言うなんて、ちょっとおかしいけど。
でも、それぐらい。
無色透明になりたかったのかも。みゆきは
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あとは、そうそう。忘れちゃいけない。
この映画もやはり、セックスシーンがすごくよかった。
無駄な裸がひとつもないんだ。
その中でも、特によかったのがね...
みゆきの元彼ね。
最初は、なんかこう…言い訳がましい男だなーって思って観てた。
今さらなんだよ?
なにがしたいんだよ?
という、ズバリのことを言う前から漂うなんというかこの…重さ。鬱陶しさ。
震災のとき、お母さんがあんなことになったのに
呑気にデートしてていいのかな?って俺言ったろ
あのときの俺、どうかしてたんだ
生き残った自分が死んでった人に申し訳ない気がして
今になってやっと少しわかったよ
好きな人とデートできることが大事なんだって
そんなこと言うためにメールしたの?
また、これがね。
言葉を練って練って、練習してきたんだろうなー
って思うぐらいの、棒な台詞なんだよ。
イライラしたみゆきは、元彼からメールが来てもスルーするんだけどね。
とうとう、家の前まで来ちゃうんだよね。元彼が
ご飯でもどう?
ホテル行こう
ホテル行って、前のようにできたら、またつきあう
だけどもしそうじゃなかったら、もう会わない
そういうことにしない?
この後のセックスが、すごい。
ちょっとやそっとじゃ、忘れられないや。わたし
こんな悲しくて胸に迫るセックス、見たことないよ。
黙ってようかと思ったけど
やっぱり無かったことにはできないから
俺は平気だよ
みゆきが泣いてるのは、わかる。
こちら側から顔が見えるから。
問題が、元彼の方で。
「平気」「大丈夫」って言いながら、淡々と続けようとするんだけど。
ずーっと、肩震えてんの。
ずーっと、洟すすってんの。
こんな悲しくて胸に迫るセックス、わたしは見たことがないよ。
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さて、このタイトルは『彼女の人生は間違いじゃない』だけどね。
間違いじゃない人生は、みゆきの人生だけじゃないんだよね。
上に書いた、元彼の人生もそう。
それから、みゆきの父親の修もそう。
母ちゃん、寒いだろ
母ちゃん、寒いよな
母ちゃん、ごめん…ごめんな
ここなんかも、そう。
何に対して、あやまってるのか?っていうのがね
「寒い思いをさせてたことに気づかなくて」ごめんな。なのか。
ううん、それだけじゃないよね。
「助けることができなくて」ごめんな。であり
「俺だけ生き残って」ごめんな。であり
「毎日パチンコばっかりしてて」ごめんな。であり
「あのうまい枝豆がもう作れなくて」ごめんな。だよね。
全部に対して、だよね。
あやまってもどうにもないことばかりだよ。
でも、あやまらずにはいられないんだよね。
間違いじゃない。
あれだけの大きなことが起こると、いろんなことがあるけれど。
正しいとか、間違いとかじゃなくて。
いろんなことが起こって。
いろんな別れがあって。
でもまた、新しい出会いもあって。
閉じている毎日の中にも
「もしかしたら、もうちょっとだけがんばれるかも」
って思えるような朝があって。
否が応でも、そんなふうにしか進められないのが
「生きていく」ということなのかも。
ニュースの裏側には、こんな生の顔の人たちがたくさんいること。
憶えておきたいなって思ったの。
*1:この編集手法、映画の用語でなんて言うんだろう?